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「口を慎みなさい。貴方はレヴオルロージュ第二王女の前にいるのよ。わたくしの友人を傷付けた罪は重いわ」
「おや、王女様だったか。まあ俺には関係ないさ。俺はレヴオルロージュの人間じゃないからな。俺みたいな庶民相手に国際問題だって言うほど暇じゃないだろ?」
国際問題……? とシャルロットが呟く。
ドミノの男は耳と尻尾を動かす。レヴオルロージュの国民の中にドミノはほとんどいない。悪質な人身売買の商人に狙われるほど数が少ないため、ドミノに会ったことがないという者も少なくない。
「貴方は……異邦人……?」
「ルージュ・ヴァルフォレトのロートヴォルフだ」
「ロートヴォルフ……」
国土の大半を密林が占めるルージュ・ヴァルフォレト。ペロア大陸全体からも姿を消したと言っても過言ではないドミノが比較的多く残っており、中でも深紅狼衆と呼ばれる狼達が森も街も半ば支配している。
かつて王国だったルージュ・ヴァルフォレトでは市民革命が起きた。ルージュ革命で権力者という権力者が追放され、王宮は陥落し、王政だった国はひっくり返った。政治に不満を持つ市民達を先導し、煽り、旗を振った者の姿から「赤ずきん革命」とも呼ばれている。
赤い装束の先導者が引き連れていたのがロートヴォルフの名を掲げる狼ドミノの集団である。現在は共和国となったルージュ・ヴァルフォレトだが、革命の立役者であり英雄である狼達は国民から信頼され、尊重されている。彼らは外敵から国を守り、そして、見返りとして国民から立場を与えられている。あくまで共和制であり狼達が牙や爪を国民に振りかざすようなことはないが、結果として狼達がかなりの力を有することになっている。
ルージュ革命は周辺国にも大きな衝撃を与えた。王政の続く近隣諸国は軒並み震え、各々様々な政策を施行した。レヴオルロージュにおける数代前の国王によるドミノへの圧政はクーデターや革命を恐れたものとも言われているが、国王の真意を知る者は時の流れた今のレヴオルロージュにはいない。
ルージュ革命の概要はレヴオルロージュの学校でも近隣諸国の歴史として授業で扱われる。王室と国民が良好な関係を築いている現在のレヴオルロージュでは革命に怯える必要などない。しかし、元々恐ろしい獣である狼が革命を主導したと聞いて、シャルロットはロートヴォルフの名に恐怖した。
「こ、ここはレヴオルロージュよ。どうしてここにいるの」
シャルロットの声は震えていた。
「どうしてって、呼ばれたから来てやったんだぞ。本当はもっと奥まったルージュ・ヴァルフォレト側の国境沿いに拠点を置いてるのに、お貴族様をそんなところまで来させるわけにはいかないからな。レヴオルロージュ内で、これくらい開けてるところならいいだろうと思って」
「もしかして……イェーガーさんですか……?」
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