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「ヴェルレーヌさんは? アンタも坊ちゃんだからこういうのは食べ慣れてないだろうけど……」
「美味しい、です……。アイントプフといいましたよね。後でレシピをお聞きしてもいいですか」
「いいけど……」
シェフに作らせるのか? という問いにリオンは首を横に振った。
リオンは料理をすることが好きだ。最初こそ継母達に無理やりやらされていたが、腕が上がるにつれて好きになった。レパートリーが増えるのはいいことなので、気になる料理や気になる食材があればレシピを聞いたり名前をメモしたりするようにしている。
自分で作るのだというリオンに、ヴォルフガングは目を丸くした。
「アンタ貴族の坊ちゃんだろ? アンタが料理するのか」
「私の家には使用人がいなくて……。雇える状態ではないんです……。なので、私が」
「へぇ、珍しいやつもいるんだな。ルージュ・ヴァルフォレトに貴族はもういないけど、貴族の末裔ってやつは皆過去の威光を掲げて高いところでふんぞり返ってる嫌なやつばかりだから」
スープもパンもぺろりと平らげたヴォルフガングがリオンの背中をバシバシ叩いた。ふさふさの尻尾は大きく大きく振られている。
「気に入ったぜ坊ちゃん。わざわざ自分から出向いて来るし俺の料理も褒めてくれるし。アイントプフのレシピもガラスの毒リンゴのことも知ってることなんだって教えてやるよ! わはは!」
「ありがとうございま……痛い! 痛いです!」
「おぉ、悪かったな。ゆっくりたくさん食ってくれよな。作った甲斐があるぜ! ははは!」
豪快に笑いながら、ヴォルフガングは自分の分の皿を持ってキッチンへ向かって行った。
外国の料理も美味しい、とシャルロットが食事をどんどん口に運ぶ。少し硬いパンには驚きを見せたが、それもいつもと違って面白いと嬉しそうに頬張る。
「美味しいわね、リオン」
「そうですね。……こうして、シャルロットと食事をすることができるだなんて思ってもいませんでした」
「わたくしと一緒だともっと美味しい?」
「そっ……そう、かも、しれませんね」
見本の味をしっかり味わいながら咀嚼していたリオンは、シャルロットの笑顔に意識を持っていかれながらも料理を飲み込んだ。咽そうになり、慌ててスープを飲む。
「大丈夫!?」
「大丈夫です……」
外国の他の料理も気になるね、という話をしながらスープとパンを口に運び、リオンとシャルロットは食事を終えた。
後片付けをしているヴォルフガングに、キッチンを見回しながらリオンは声をかける。
「人参か、何か野菜は余っていませんか」
「足りなかった? 生で食べるか」
「表に馬がいるんです」
「馬? あぁ、王女様と坊ちゃんが徒歩で来るわけねえもんな。ほら、持ってってやれ」
箱から出された人参数本を受け取り、リオンは外に出る。
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