Verre-3 愛という呪い

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Verre-3 愛という呪い

 ランプの明かりが揺れる。照らされた懐中時計は長針がもう一回りすると日付が変わると告げていた。時計をしまい、アンブロワーズはランプを消す。夜空では月が光っているが、木々に遮られているので小屋の中はほとんど真っ暗である。僅かな光を頼りにソファに歩み寄る。  使い古された硬いソファの上ではリオンが毛布にくるまって寝息を立てていた。畳まれたジャケットが隣に置かれ、揃えられた靴が床に置いてある。シャルロットに編まれていた髪はゆるく波打っていていつもと違う雰囲気を醸し出していた。  商人達が休憩に使う小屋。仮眠室に置かれたベッドは二つ。片方にはシャルロットが眠っており、もう片方は無人である。シャルロットはリオンに隣で寝てもいいと言ったのだが、リオンが辞退したのだ。まだ婚約者ですらない自分が王女と同じ部屋で眠りにつくなど、外にいる使用人達に知られれば何が起こるか分からない。シャルロットは「何もないわよ。気にしないわ」と言ったが、リオンは「使用人達に何か言われたらどうしようと、私が気にするんです! 怖くて!」と泣くように叫んだ。  小屋の外ではヴォルフガングが目を光らせており、使用人達も交代しながら周囲を警戒している。暗く深い夜の森の中でも、小屋の中は安全だ。  アンブロワーズはソファに腰を下ろす。有翼のドミノは翼がつかえてしまうため正面を向いてソファに座ることができない。ブーツを脱ぎ捨て、リオンの方を向いて体をソファに乗せる。 「毛布、一枚しかないから君も使っていいよ」 「起こしてしまいましたか。大丈夫ですよ、俺にはこのローブがありますし、それに天然の羽毛もあるので。貴方のこともこの翼で包んであげますね。ふふ」 「顔が怖い。……でも、暖かいね」  純白の翼にそっと顔を寄せるリオンを見て、アンブロワーズはこみあげて来る喜びを噛み締める。 「アンブロワーズ」 「はい! 何でしょう?」 「イェーガーさんを見た時、どうしてあんなことをしたの。あんなに殺気に満ちた顔をするのは珍しいよね」 「貴方を傷付けたから。……それに、狼だったから」  狼? とリオンは聞き返す。自分を攻撃してきた相手をこの鳩が許すことはないだろうということは想像に難くない。狼であるということも理由になるのだろうか。  翼の中のリオンをにやにやしながら見つめていたアンブロワーズが笑みを消した。 「貴方が怖がって震えてしまうのではないかと思って」 「噛まれた時は驚いたけれど、あの時はもうだいぶ打ち解けていたよ」 「だって、狼ですよ。もう、震えて震えて、がたがたがくがくして、王女様の前で醜態を晒すんじゃないかと思って。狼に噛まれたなんて、そんな、貴方、だって……。だって、ねぇ、あんなことがあったから」  事の詳細を話すことを避けているアンブロワーズのことを、リオンは不思議そうに見ていた。魔法使いが何を躊躇っているのか、灰かぶりには分からない。
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