Verre-3 愛という呪い

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 翌朝、リオンは毛布の中で目を覚ました。ヴォルフガングが朝食の準備をしており、料理の匂いが漂っている。 「よう、坊ちゃん。おはよう」 「おはようございます。……アンブロワーズは?」 「鳩の兄ちゃんなら外だ。日が出て来たから俺が中に入ろうとしたら、外に出て来た。自分が外にいるから俺は少し休んでいいって言ってよ。で、俺は一休みしてから、こうして飯を作ってるってわけ」  フライパンの上では大ぶりのソーセージがごろごろと転がっていた。 「朝食まで……ありがとうございます」 「俺はいつも通りにやってるだけだよ」  リオンは身だしなみを整えてから、仮眠室のドアをノックした。返事はない。もう一度ノックすると、言葉になっていない音が返って来た。シャルロットはまだ半分眠っているようだ。  声をかけて中に入り、後ろ手にドアを閉めてからリオンはシャルロットの様子を窺う。毛布を抱えて丸くなっているシャルロットはシュミーズ姿であり、このうえなく無防備だった。ふわふわした金色の髪が顔を包んでいる。  朝、部屋から出て来ない義姉を呼びに行くことがたまにある。リオンが声をかけると、義姉達は本や鏡から顔を上げた。ドレスの裾を整えろとか、髪を纏めてくれとか、色々な要望をされることもある。呼び付けられることも多々あるため、リオンは女性の部屋を訪問すること自体は躊躇わない。  しかし、相手が肌着姿であれば話は別である。リオンは踵を返し、ドアを開けた。 「シャルロット、おはようございます。朝ですよ。イェーガーさんが朝食の用意をしてくれています」 「んぅー」 「外にいる侍女を呼んで来ますね」  使用人達はいない者として陰に隠れているが、王女様の身支度となれば呼び出さないわけにもいかないだろう。やれコルセットを締めてくれだの、やれパニエを持って来てくれだの義姉達に言われることがあるが、身内と王女様では事情が異なる。使用人達にあることないこと邪推されて騒がれても困るのだ。  リオンが外に出ると、シトルイユが嬉しそうに擦り寄って来た。王宮の白馬はまだうとうとしていたが、人間の接近に気が付いて一瞬で姿勢を正した。 「おはよう、シトルイユ」  愛馬を撫でてから茂みに向かう。葉や枝が少し散らかっているようである。 「王宮の使用人、そこにいるね。シャルロット様の身支度を頼めるかな」  茂みから出て来た侍女数人が小屋に入って行くのを見送り、リオンは周囲を見回す。アンブロワーズの姿が見えない。
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