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使用人達に訊ねると、先程まではいたが気が付いたらいなくなっていたとのこと。木々は暗い影を落としているが、夜と比べれば遥かに明るく、小屋の周りは開けているため真っ白な姿があれば目につくはずである。
「どこに……あっ」
木立の向こうで白いものが動いた。リオンは歩み寄り、声をかけて覗き込む。
「おはよう、アンブロワーズ」
「あぁ、リオン。おはようございます」
「こんなところで何してるの。小屋の前にいるんだと思ったのに」
「俺のことを心配してくれたんですか!? ありがとうございます!」
背を向けて屈んでいたアンブロワーズが立ち上がって振り向く。そして、自分の勢いに負けてよろけた。
「ちょっと、大丈夫?」
「夜全然眠れなくて……」
真っ白いローブに土が付いている。そして、リオンに支えられてにやにやしながら上げられた顔には痣ができていた。
「……鼻血が出てるよ」
「えっ! あっ、これはリオンが来てくれたから興奮して」
「怖い……。そうじゃなくて! 顔、どうしたの。ローブも汚れてるし」
アンブロワーズは鼻血を拭う。
「小川でも見付けて顔を洗ってから会おうと思ったのに」
「何かあった?」
「……あいつら、リオンのことを馬鹿にしてたんです。王女様とは不釣り合いだって。寝不足だったし、俺もちょっとイライラしていたのかもしれません。やりすぎたと思います。でも、許せなくて。殴ったら反撃されました」
「あいつらって、王宮の使用人? だから地面が荒れてたのか」
「体が、痛い……。また、貴方に怒られてしまいますね……」
「もうっ! 君というやつは! まだ安静にしてなきゃ駄目なんだろ! シャルロットに使用人達に注意するよう言っておくよ」
少しふらついているアンブロワーズに肩を貸してリオンは歩き出す。小屋の前の茂みがざわついたが、使用人達が姿を現す気配はない。
小屋に入ると、ドレス姿のシャルロットが席に着いていた。皿を運んでいたヴォルフガングと一緒に、二人揃って目を丸くして口を開ける。
「ま、魔法使いさん、どうしたの」
「おいおい、外で何かあったのか。料理してると周りの音はあまり聞こえねえからよ。っと、確か薬類はあそこに……」
リオンが事情を説明すると、シャルロットはみるみるうちに怒りの表情に変わった。立ち上がり、ぷりぷりとした様子で拳を握る。
「リオンはわたくしの大切なお友達よ! そして魔法使いさんはリオンの素敵なお友達なんだから! 後で言い聞かせておくわ。魔法使いさん、うちの使用人達がごめんなさい。リオンも、嫌な思いをしちゃったでしょ、ごめんなさい」
頭を下げるシャルロット。リオンは王女に頭を下げさせてしまったことに慌てて、すぐに頭を上げるように言った。
「わたくし……。わたくし、誰にも文句を言わせないわ」
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