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Verre-4 お菓子議事録
穏やかな午後。
リオン達が森から帰還して数日。王宮のシャルロットの部屋では優雅なお茶会が催されていた。
「僕が帰ってからそんなことが」
ティーカップをソーサーに置いて、ドミニクが言う。
「シャルロット様もリオン様もご無事で何よりです」
優雅なお茶会、と使用人達は思っている。少年少女達の秘密の作戦会議がテーブルの上でお茶とお菓子と共に広げられているとは思っていない。王女付きの侍女にはシャルロットの味方が多いが、大半の使用人が「王女はそのうち諦める」「ドミニクと結婚した方がいい」「没落子爵令息なんて不釣り合いだ」と考えているのが事実である。
リオンとシャルロットのガラスの靴探しに毎回ドミニクが参加する必要はなく、モーントル学園で寮生活をしているドミニクのことを毎度毎度呼び出すことをシャルロットは少し申し訳ないと思っていた。しかし、情報共有は直接した方がいい。手紙にしたためて送って、途中で誰かに邪魔でもされたら大変だ。
そして何より、貴族達の動向に詳しいのはドミニクだ。リオンは議会に顔を出しているが、ジョルジュ以外と言葉を交わすことはほとんどない。自分から話しかけても無視されることが多く、向こうからやって来るのはジョルジュくらいだった。ドミニクならば、オール侯爵にさりげなく話を訊くことができる。例え怪しまれても、リオンへの対策なのだと上手く理由を付けてしまえば侯爵は嬉々として話をするだろう。
テーブルを囲んでいるのは四人。リオンと、シャルロットと、ドミニクと、リオンにべったりくっ付いているアンブロワーズ。カヌレの皿をリオンの前に持って来てにこにこしているアンブロワーズのことを、ドミニクは怪訝そうに見ていた。
「リオン、カヌレですよ。貴方これ好きでしょう」
「そのカヌレね、特別に用意させたのよ。貴方がカヌレ好きだから。なんでも、発祥地だっていうところの老舗のパティスリーで作ったやつだとか、なんとか」
二人に勧められてリオンはカヌレを口に運ぶ。
カリカリの外側としっとりとした内側から成される独特の食感。古くから国内某所の修道院で作られていたとされているが、当時の資料は戦争や災害で消失したものも多くあまり残っていない。歴史は曖昧だが、混乱の最中でも口伝で残すことのできたレシピだけが今もしっかりと受け継がれている。
「ん、美味しいです」
「本当!? よかった! また仕入れさせるわね!」
「リオン、こちらにエクレアもありますよ。チョコレートもクリームもたっぷりです」
「リオンはエクレアも好きなの? それはわたくしのお気に入りのパティスリーのものよ。よかったら感想を聞かせてね」
「うん……あの……。シャルロット様ありがとうございます。アンブロワーズも。二人してそんなに押し付けてなくても自分で食べますから」
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