40人が本棚に入れています
本棚に追加
シャルロットとアンブロワーズにお菓子塗れにされそうになっているリオン。怪訝そうに様子を見ていたドミニクも表情を緩める。緩めるどころか、堪え切れない笑いが浮かんでいた。王女のことを笑うのも、家の爵位が下とはいえ年上の令息のことを笑うのも躊躇われた。頑張って堪えようとして口の端が歪む。
カヌレを食べて、エクレアを一口齧って、リオンは紅茶を飲んだ。
「さっさと話を進めましょう。ドミニク様は門限までに学園の寮に戻らなければならないんですから。ほら、困っているようだし」
「いえ、僕は別に困ってはいないです……。笑ったら失礼だと思って、耐えていて……」
「あら、面白いと思ったらたくさん笑ってもいいのよ。わたくし気にしないわ」
「僕が気にするんです」
ドミニクはマカロンに手を伸ばす。
使用人が持ってきた際に山盛りにされていたマカロンは他の茶菓子よりも勢いよく暈を減らしていて、今はもう半分もない。味の種類も減っており、ドミニクは比較的多く残っている味を選んで手に取った。
「ところで、どうして鳩さんがここにいるんですか?」
「俺がいてはいけませんか? 先日もいたし、貴方も従者を連れているでしょう。まあ俺はリオンの従者じゃないですが」
「僕の従者は外で待っています。彼のことは信用していますが、父に何か伝えてしまうかもしれないので。シャルロット様も侍女はここにいないですし」
「俺は絶対にリオンの味方ですからね。侯爵が何か企んでいようと俺はそれに加担なんて絶対にしませんから。ガラスの靴の現物を一番分かっているのは俺ですし」
「父は……父はやはり、何か考えているんでしょうか。随分と余裕そうにしていて、ちょっと不気味なんです……」
「怪しいですね、あのジジイ。よし、俺が吐かせましょう」
今すぐにでもジャンドロン邸へ向かってしまいそうな勢いでアンブロワーズが立ち上がった。リオンがローブを引っ張って慌てて座らせる。
「駄目っ! 駄目だよ。君絶対物騒なことしようとするから。あとジジイとか言わないの」
「リオンがやめろと言うならやめますが……。もしもこの先あのジジイに困るようなことがあればすぐに俺に言ってくださいね。どうしてやるかは王女様とドミニク様の前なので言いませんが」
一体何をどうしてしまうんだろう。シャルロットとドミニクは不安そうに、それでいて興味深そうにアンブロワーズを見た。
「ドミニク様、彼のことは気にしないでください。白いので目立ちますが気になるのならいない者だと思ってくれていいですから」
「俺は外で待っていてもいいと言ったんですけどね、リオンが俺に傍にいてほしいと言うので。ふふ、俺がいないと寂しいんですね」
「目の届かないところで待たせて、この間みたいになったら嫌だから」
リオンは軽く目を伏せる。
最初のコメントを投稿しよう!