Verre-4 お菓子議事録

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 にやにやしていたアンブロワーズが笑みを消した。豆鉄砲を突き付けられたような顔になり、安心させるようにリオンの背を撫でる。その手つきは普段の薄っすらと下心が見えるものではなく、「兄のようだ」と言われたことに応えるような優しいものだった。 「な……何か、あったの?」  紅茶を飲もうとしていたシャルロットが手を止め、カップをソーサーに置く。 「魔法使いさんが王宮に来たのは、わたくしが貴方を最初に連れて来た時よね。その次の時、魔法使いさんは来なかったわ。具合が悪いって言ってたけど……」  リオンは背を撫で続けるアンブロワーズの手をゆっくりと退けた。  魔法使いはどうしたのかと問うたシャルロットに対して、一度嘘を吐いた。嘘に嘘を重ねるよりも、本当のことを話した方がいい。リオンが思っているほどシャルロットは弱く幼く小さな存在ではないはずである。 「外で待たせていた時、誰かに絡まれて……窓から落とされたんです」 「えっ!? ま、窓から!? 魔法使いさん、大丈夫だったの!? あっ、大丈夫じゃなかったからいなかったのよね。それじゃあ、狼さんを襲おうとしてた時に動けなかったのは体が痛かったから?」 「鳩さん、狼を襲ったんですか……?」  心配そうなシャルロットと驚いているドミニクに、アンブロワーズはへらへらした顔を向けた。 「俺は全然大丈夫ですよドミノなので。人間だったらもっと重傷だったかもしれませんが。リオンは心配性なんですよ。そんなに俺が大切ですか、かわいい人ですね……」 「すごく痛そうにしてたよ」 「そっ、そうでしたか?」 「そう。だから、王宮で彼を目の届かないところにいさせたくないんです。ここ最近は議事堂でも近くにいさせてて……。誰がやったのか犯人捜しをするつもりはありませんが……」  子爵の名代としてリオンが議事堂に出入りするようになってから今まで、リオンが何か目に見えるほどの嫌がらせを受けたことはない。せいぜい無関心そうな目を向けられる程度だ。アンブロワーズは毎回のように付いて行っているが、ただのドミノの従者だと思われており彼も何かをされたことはない。  議事堂ですれ違う貴族やその使用人達からの視線が鋭くなったのは一度王宮へ来てからだ。リオンの左足にガラスの靴がぴったりだったことはまだ公にはされていないが、一部の貴族の耳には入っている。没落寸前子爵家の息子が王宮に出入りしており、王女ともよく顔を合わせている。靴もぴったりだった。他の貴族からすれば面白くないのだ。あんなにも落ちぶれた家の子がどうして、と。
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