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「私が王宮にいること自体が不自然だから、その従者のアンブロワーズが王宮にいることもおかしいと思われているんだと思います……。彼は従者じゃありませんが」
「この間のことは王宮内の使用人にはきつく言ったわ。でも、どこかの家の使用人にまでわたくしが何か言うのは難しいわね。やっぱり、貴方のことをみんなに認めさせないと」
どうやって珍しい靴を持っている貴族を見付けようか。紅茶と茶菓子を口に入れながら話し合ったが、この日は結論には至らなかった。
モーントル学園の寮の門限まで、まだ時間がある。王宮を後にしたドミニクは従者を引き連れてジャンドロン邸へ来ていた。「物を取りに行くだけだから」と言って、従者を馬車で待たせて自室へ向かう。
先日、ドミニクはルームメイトから気になる本があるという話をされた。学園の図書館で探してみたが見当たらなかったらしく、タイトルを訊ねると彼が探している本はドミニクが所有しているものであることが分かった。「家にあるから今度持って来る」と言うと、ルームメイトは嬉しそうにしていた。
貴族の令息・令嬢や政治家、豪商、豪農の子供達が通う名門王立モーントル学園。国内最大とも言えるレベルの巨大な図書館を有しているが、世界中全ての本があるわけではない。世の中では様々な本が次々と作られて行くため、国内で出版された本に限っても全てを所蔵しているわけではなく、学園の図書館にない本は他の図書館や本屋で探すことになる。
東へずっと進んだ海の向こうには世界中の全ての本が集まる図書館があるという。お茶会の途中で本の話になり、いつか行ってみたいと夢を語るドミニクにリオンも同意していた。
目当ての本を手に、ドミニクは玄関へ引き返す。途中、侯爵の声が聞こえて思わず足を止めた。
「――小僧は間に合わない」
「オール侯には何か秘策が?」
「ふん、私には切り札があるからな」
「王女の婚約者はドミニク様で決まりですね!」
「あんな落ちぶれ子爵に負けないでくださいね、侯爵」
「オール侯、貴殿なかなかに欲深いのだな」
リオンのことだ、とドミニクはすぐに思った。父の余裕を疑問に思っていたが、どうやら秘策があるらしい。
「あれが本物ならば、私の勝ちだ」
もっと詳しく話を聞きたい。息を潜めて、ドミニクは壁越しに耳を澄ませる。ところが、通り掛かった使用人に声をかけられてしまった。
「坊ちゃん、そんなところで何をなさっているんですか」
「わ。いや、何もしてないよ」
「旦那様にご用事ですか? 声をかけて来ましょうか」
「いや、いや、大丈夫。用も済んだから学園へ戻るよ」
本を持ち直し、ドミニクは逃げるようにその場から立ち去った。随分と慌てて戻って来たものだから、馬車で待っていた従者はどうしたのかと問いかける。
「父上はどうしても僕をシャルロット様の婚約者にしたいらしい」
「旦那様は諦めないと思うよ、最後まで」
「……クロードはどっち側?」
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