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留守にしている時間が長くても美しさが霞むことのないジョゼフィーヌの部屋。姉の部屋に入る時、シャルロットはいつも緊張する。部屋そのものが職人の手によって作られた芸術品のようで、小さな自分が踏み入ることでどこかを崩してしまうのではないだろうかと思うからだ。昔からずっとジョゼフィーヌは大人っぽくて綺麗で華麗だった。シャルロットがどんなに背伸びをしても届かないくらい、姉は大きな存在だった。
一歩も動けないまま、シャルロットはきょろきょろと部屋を見回す。
「なあに、迷子みたいな顔して。そんなにお姉ちゃんの部屋が怖いの」
「こ、怖くないです。ただ、わたくしがここにいていいのかなと」
「いいに決まっているじゃない。貴女は私のかわいい妹で、レヴオルロージュ第二王女なのだから」
ジョゼフィーヌはシャルロットの手を引き、椅子に座らせる。そして自分はベッドに腰を下ろした。天蓋付きの豪奢なベッドに座るジョゼフィーヌは、丁寧にラッピングされた贈り物のようだ。
「あの子、ガラスの君。どこの誰なのかしら? 誰も知らない子だったのよね」
「彼はリオン・ヴェルレーヌ。サンドール子爵の御令息です」
「サンドール子爵……。サンドール子爵……? あそこは、随分と落ちぶれてしまったのではなかったかしら。そんなところの子がガラスの君だっていうの? 私が目で追ってしまうほど美しい少年だったのよ」
ジョゼフィーヌはガラスの君の姿を朧気ながら頭に思い浮かべる。舞踏会に来ていた人々の多くが見惚れた貴公子がそんな家の子なわけがない。あんなにも美しかったガラスの君は大貴族の子に違いない。シャルロットは冗談を言っているのだ、というようにジョゼフィーヌは少し困った顔をする。
「あらあら。久し振りに会えて嬉しくて、冗談を言って私をからかっているのね。ふふ、かわいらしいことをするのね」
「違います、お姉様。リオンはガラスの君です。誰が何と言おうと、彼こそがわたくしのガラスの君です」
シャルロットの真剣な眼差しにジョゼフィーヌは虚を突かれた顔になり、そして艶っぽく笑った。実の妹であってもドキリとしてしまう艶めかしさに、シャルロットは息を呑む。
シャルロットにとっては兄よりも姉の方が遠い存在のようだった。歳は姉の方が近いはずで、大人なのは兄のはずだ。けれど、おとなしくて優しい兄よりも、奔放で妖艶な姉の方が近付きがたかった。ジョルジュとなら弾む会話も、ジョゼフィーヌの前では委縮してしまう。
しかし、たった今シャルロットは姉の言葉を正面から否定し己の言葉をぶつけた。
「へぇ、シャルロット貴女……そんなにその子が好きなのね。そんなに強い顔でその子のことを言えるなんて」
ジョゼフィーヌはベッドから立ち上がった。
「小さくて幼い貴女は震えているだけだったのに。少し見ないうちに大人になったわね」
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