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手近な椅子を引き寄せ、シャルロットの目の前に座る。
「ガラスの君が貴女を変えたのかしら。ねぇ、どこに惹かれたの? 舞踏会で一目惚れ?」
「わたくしは……。わたくしは、ずっと彼を探していたんです」
王妃の実家が持つ別荘へ訪れた幼い日。あの夏の日にリオンと出会ったことは誰にも言っていない。こっそり抜け出していたのだから当然である。
ジョゼフィーヌにならば言ってしまってもいいのではないだろうか。もう、誰にだって言ってしまってもいいのではないか。あの時の男の子がリオンで、ガラスの君で、自分の前に現れた運命の素敵な方なのだと。
シャルロットはドレスのフリルを握り締める。そして、意を決して口を開いた。
別荘に行った小さな頃に出会ったこと。大きくなったら結婚してくれと言ったと。ずっと探していたこと。舞踏会で再会した時には気が付かなかったが、ガラスの君が彼だと分かった瞬間に思い出が溢れて来たこと。顔を合わせるようになったここ最近で、もっと仲良くなれたこと。
「小さい頃に会ったのはほんの数日。でも彼への気持ちは本物でした。子供が言った言葉だけど、本気だった。本気じゃなかったら探し続けてなんかいないもの。絵本で見た、お姫様を迎えに来る王子様……。わたくしの王子様はこの人なんだって、そう思いました。ずっと、そう思い続けて来ました。ガラスの君に惹かれて、あの日のあの子はただの思い出になってしまうんじゃないかと思った。でも、彼は彼だった。やっぱり彼がわたくしの王子様なんだって思ったわ。わたくし、彼のことが好きです。ずっと、ずっと好きだった。今も大好き。わたくし、リオンのことが大好き」
シャルロットは愛しい人を思い浮かべて微笑む。
「幸せそうな顔しちゃって……。貴女、そんな顔をするようになったのね。なるほど、貴女がガラスの君のことをどれだけ愛しているのか分かったわ」
でも、とジョゼフィーヌは言葉を切った。
「彼との婚約を皆は認めてくれるかしらね」
皆の中にはジョゼフィーヌ自身も入っている。シャルロットの想いは分かったが、それとこれとは別である。
ジョゼフィーヌの妖艶な瞳にシャルロットは飲み込まれそうになる。しかしここで負けてはこれ以上先には進めない。姉は強大だが、大人達はより強い存在なのだ。
同じ場所にいるためには頑張って走り続けなくちゃならないんだから! リオンに言った異国のことわざを、今度は自分に言い聞かせる。シャルロットはフリルをぎゅっと掴んで、離す。
「認めさせます」
シャルロットの凛とした顔に、ジョゼフィーヌは満足そうに笑みを零す。
「強気じゃない。いいわね。応援してるわ」
王女様然としていたシャルロットの表情が幼さの残る笑顔に変わる。
「お姉様っ! ありがとうございます。わたくし頑張るわ。ガラスの靴を必ず見付けます」
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