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(悪いのは私じゃない。
あの女よ…!)
まるで自分に言い聞かせるように何度も心の中で繰り返しながら、律子は外灯もまばらな道を走り続けていた。
律子の着ている白い花柄のワンピースには、大輪の薔薇のような真っ赤な染みが描き込まれていた。
あたりにすれ違う人もいない事は、そんな律子には都合が良かった。
事の発端は、同僚の純一の事だった。
同期で入社した律子と純一と麻美は、それなりに仲の良い同僚だった。
だが、外見が良く優しい純一に、律子だけではなく麻美もが好意を持ち、その事が悲劇の始まりとなった。
積極的な律子は、純一とも親しく付き合い、告白されるのも時間の問題だと感じていた。
そんなある日、律子は信じられない話を耳にした。
来春、純一と麻美が結婚するという話だ。
どうにも納得がいかない律子は麻美に二人っきりで話がしたいと申し出た。
(そりゃあ、確かに静かな場所で話したいって言ったのは私よ。
だけど、何もこんな遠くの別荘に来る事ないじゃない。
しかも外車で迎えに来るなんて…
嫌な女だわ…
あいつは純一の心もお金で買ったんだわ!)
「さぁ、どうぞ。」
手入れの行き届いた庭…立派な別荘…
律子にはとても手の届くものではなかった。
(なんでも持ってるくせに、その上、純一まで手に入れようとするなんて…
なんて欲深い女なのかしら!)
広いリビング、大きなテレビ、いかにも上等な革張りのソファ…
そのすべてが、律子のカンに障った。
頭に血の上った律子に、冷静な話し合い等出来る筈がなかった。
カッとした拍子に律子はナイフを掴み、迷うことなくその刃を麻美に向かって振り下ろした。
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