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(これで良かったのよ。
あんなお金しか取り柄のない女と結婚しても、純一は幸せになんてなれない。
そうよ…私は純一を救ってあげたんだわ。
ちゃんとその事を説明すれば、純一だってわかってくれる…!)
筋の通らない一人よがりな考えに、律子は息を切らせながらそっと微笑む。
(早く純一の所に行かなくちゃ…!)
その想いとは裏腹に、いつまで経っても最寄の駅に着かないばかりか、自分がどんどん見当はずれの方向に進んでいる事に律子はようやく気が付いた。
だが、見渡す限りどこにも民家の明かりすら見つけられず、不慣れな土地で律子は完全に道を見失ったことを実感した。
(……どうしよう…
確かこっちだと思ったけど、こんな細い道、車が通れる筈ない…
どこかで道を間違えたんだわ…
そうだ!…純一に電話して…)
その時になってはじめて律子はバッグを別荘に忘れている事に気が付いた。
それと同時に、走り続けた疲れが律子を襲い、律子はその場にへなへなと座りこむ。
(まずい…あれをみつけられたら、私が麻美を殺した事がバレてしまう。
なんとかして別荘に戻らなきゃ…
大丈夫よ…今は近くの別荘にも人がいる気配はなかったし、慌てなくても大丈夫…)
心の中でそう呟くと、律子は頷き、ゆっくりと立ち上がった。
律子は元々方向音痴と呼ばれる部類の人間で、方向感覚はお世辞にも良いとは言えなかった。
増してや、暗く、印象的な建物のひとつもないこの場所ではいくら気持ちを落ち付けても別荘をみつけるのは酷く困難な事だった。
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