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*1*
「オープンキャンパス、どこ行くか決めた?」
「まだ。でも、商学系の学部行きたいんだよね」
ザァァ…
雨が少し強まった。
バス停にはトタンの壁と屋根があるから、濡れない。
けれど音が大きく響いて、どんより重い灰色の空のせいもあってかそれが少し不気味。
「うちの高校ってさ、自称進学校だよね」
「自称?」
「だってさ、有名大学に合格した生徒なんてほとんどいないのに、毎週金曜日は0限目があるし、謎に分厚い数学の教材持ち歩かされるし」
「あはは。言えてる」
あ。笑った。
いつもは切れ長の目が鋭くて、クールな顔してるのに、笑うとくしゃくしゃになって子供っぽい表情になるの、何度見ても可愛い。
好き。
言葉にするのは照れくさいけど、その言葉以外にこの気持ちを表せれない。
私、今恋してる。
私の名前は、雨宮梨良。
名字に〈雨〉が入っているのに、雨に好かれない晴れ女だ。
でも、梅雨には勝てない。
梅雨はいい。梅雨は好きだ。
だって、雨の日は隣で笑う彼――三条陽太くんがバスで通学するから。
陽太くんのバス通学は、雨の日限定。
いつもは自転車で通っている。
私が乗ったバスが学校の手前の信号で止まっているとき、よく陽太くんが立ち漕ぎする自転車が窓から見える。
バスでも片道40分くらいかかる道のりを、颯爽と自転車で通学する姿はかっこいい。
最近は湿気で蒸し暑いのもあって、教室に入ってくる時にシャツの袖を不器用な手つきでまくっていて。それが堪らなく尊い。
クールな顔してるのに、シャツの袖まくれないくらい不器用なところがギャップ萌えだった。
最初に好きだなと思ったのは、4月の終わりくらい。顔がタイプだった。
ただそれだけ。
でも、好きになって2ヶ月くらい経つ今も、好きなところは増えていくばかりだ。
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