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「あ、バス来たね」 陽太くんが、濡れたアスファルトをバスのヘッドライトが照らすのを見て言う。 「ホントだ」 このバス停でバスを待つのは、私と陽太くんだけ。 ここは2つ目の停留所で、最初の停留所で乗る人はこの時間にはいない。 だからバスに乗ると、運転手さんを除けば私と陽太くん、2人しかいない。 でも―― 先にバスに乗る私は、いつも決まって運転席側の窓際の席に座る。 でも後から乗る陽太くんは、いつも出入り口側にある窓際の席に座る。 お互い2人掛けの座席に座るのに、その隣は空席だ。 バスを待つ間、一緒に話してくれるのにどうして隣には座ってくれないんだろう。 もしかして、バス停で待つ間話しかけるの迷惑かな? とかいろいろ考えてしまう。 でも、普段教室で笑わない陽太くんが、私と話すときに笑ってくれる。 だから雨の日はいつも話しかけてしまう。 隣に座ってくれたらいいのにな。 そう思っていると、ドアが閉まってバスがゆっくり発信した。 そこから2つ先の、住宅街の中にある停留所で、同じ学校の人たちがたくさん乗って来る。 チラッと陽太くんの方を見ると、それまで窓の外を眺めていた陽太くんと目が合った。 ぺこりと陽太くんが会釈する。 つられて私も頭を下げたと同時に、隣にクラスメイトで親友の城崎裕子(しろさきゆうこ)ことゆっこが腰を下ろした。 「おはよ」 「ゆっこ、おはよう」 ゆっこの向こうの座席を見ると、陽太くんの隣にも男子生徒が腰を下ろすのが見えた。 彼は陽太くんと一言、二言くらい話をすると、カバンから本を取り出して読み始める。 陽太くんが窓にもたれて目を瞑るのが見えた。 「今日も三条くんの隣に行かなかったの?」 ゆっこが小声で聞いてきた。 私は首を振り、訂正する。 「違うよ、私が先に乗ったの。向こうがあっちに座っちゃったんだよ」 「ふぅん。避けられてるの?」 「……わかんない」 そうじゃないと思いたい。
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