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「ねー、もう梅雨明けしたんだって」
帰りのバスを待つ間、ゆっこがスマホでネットニュースを見ながら言った。
確かに、ここ数日雨が降っていない。
「例年より少し早いんだって」
なんてこった。
梅雨が明けたらもう夏がすぐそこ。夏になったら、雨はあまり降らない。…ような気がする。
バス停で陽太くんと会う機会が一気に減ってしまう。
陽太くんと距離を縮める機会は、次はいつ訪れるんだろう。
「そうなんだ……」
「そんなに落ち込む?」
ゆっこは聞いてから、「あ」と思い出したように声を上げる。
「そっか、三条くんと話せなくなっちゃうんだっけ」
「うん……」
ゆっこの言葉に頷いたその時、校門から陽太くんが出てきた。
男子数名と喋りながら歩く姿は、いつものクールな陽太くんと少し雰囲気が違う。
男子高校生してる陽太くんも、かっこいいな。
思わず目で追っていると、不意に陽太くんが振り向いた。
ばちっと視線が重なる。
驚いて思わず目を逸らした。だって、心の準備ができていなかったから。
深呼吸して、もう一度陽太くんを見る。
視線がまた重なる――訳もなく、陽太くんは、友達と自転車置き場の方へ歩いて行ってしまった。
◇◆◇◆
「明日は雨が降りますように」
星空に向かって、願いを呟く。
てるてる坊主の頭に粘土を入れて、逆さまの“あめあめ坊主”を作った。
あめあめ坊主をリビングのカーテンレールに吊るしていると、
「梅雨明けたばっかで、この1週間は降水確率0%の快晴続きらしいよ」
お母さんが夕飯の片付けをしながら言う。
私は顔を上げ、台所の方を見た。
「でも、私は雨が降ってほしいの」
「大体、梨良は晴れ女でしょ」
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