第1話

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第1話

「お父さん、お水あげていい?」 雪田 菜穂(ゆきた なお)は、父の雪田 将志(ゆきた まさし)ゆきた まさし__#に芝生を敷き詰められたお庭の隅に植えられたお花を見て言った。 「ああ、いいよ。お父さんはこっちで草取りしてるから、お水あげは菜穂に任せるよ。」 「うん。わかった。」  風が頬を打つ。髪をなびかせて、菜穂は庭の水道からジョウロにたっぷりとお水を入れた。ジョジョジョと音が響いた。この音を聞いただけで楽しかった。  よいしょよししょと声をかけながら、少し距離のある花壇の場所まで移動した。想像以上にジョウロに入ったお水は重かったようだ。将志は、静かに手を貸して、助けてあげた。 「お父さん、このジョウロ重いよぉ。」 「そうだったね。4歳の菜穂にはまだ重いよな。ごめんごめん。一緒にした方がいいな。」 「うん、そうだよ。」  2人は花壇に植えられていた花にそっとお水をあげた。 「お父さん、お花綺麗だよね。この名前なんて言うの?」 「この辺の花はチューリップ、その隣はクチベニすいせん、すずらんすいせんだよ。菜穂はお花は好きか?」 将志は指を差しながら、花の説明をしていく。菜穂は興味津々に一つ一つの花を見ていった。 「へぇーそうなんだ!」  じーっと観察した。 「菜穂、このお花、可愛くて好き!」 菜穂のお気に入りの花を見つけたようだ。   「ん?」 「それは、すずらんすいせんって言うんだよ。」 「へぇー。」 「スノーフレークとも言うんだよ。すいせんにも似てて、すずらんにも似てるんだ。スノーは雪でフレークは薄片って意味だな。どっちつかずって意味もあるかな?」 「スノークレープ?」 「違う違う。食べ物じゃないよ。スノーフレーク。」 「スノーフレークだね。菜穂が絶対このお花にお水あげるから、お父さんはあげちゃだめですよ!!」 「はいはい。お手伝いありがとうね。お水あげ隊長に任命します!!」 「はい。隊長頑張ります。」 菜穂は敬礼をして、お水を気合いを入れてたっぷりとあげた。  美しく白いすずらんとすいせんに似たすずらんすいせん。  どっちともない。  スノーフレークと名付けられたその花は ヒガンバナ科 和名はオオマツユキソウ とも言う。  花そのものは小さくてチューリップほど表立って目立つものではない。  すずらんほど馴染みは薄い。  それでも、負けないくらい可愛いもので美しいとされている。    毎年5月になると咲き始める。そのスノーフレークのお花の管理は決まって菜穂がすることになった。父や母が水をやろうとすると怒ってむつける始末。 それくらい 菜穂はその花に魅了されていた。 **** 「うわぁ~!!寝坊した。」 ベッドから転げ落ちた。  何回も消したんだろう2つの目覚まし時計が転がっている。 スマホのスヌーズ機能のアラームも何度も表示されていた。 時刻は午前7時20分。 高校は、午前8時半までには着いていないといけない。 いつも起きるのは午前7時。 制服着て、顔洗って、歯磨きして、朝ごはん食べて、その時間がのんびりしてしまうから起きなきゃいけないのに起きれなかった。 20分も過ぎている。どれか手を抜かないとっと思っていると、母の雪田 沙夜(ゆきた さよ)に首根っこをつかまれた。 「菜穂、ご飯、少しでも食べていかないと,体、持たないよ?!」 「あわわわ…だって、時間ないから。髪もほら、とかしてないし、顔も洗ってないし。」 「良いから、きちんと座って。おにぎりだけにしといたから、食べていきなさい。」  そのまま菜穂は母の沙夜に食卓のいすに座らせられた。 「はぁ。もう。しかたないなぁ。」 「仕方ないって、自分の体でしょうが!?」 「はい、そうですね。いただきます。」  時計をこまめに見ながら、おにぎりを食べた。  高校までの移動はもっぱら自転車だった。  約40分の距離をワイヤレスイヤホンで好きな音楽をつけながら、登校している。  いつからか、自転車の規制が厳しくてヘルメットをかぶらないといけなくなったのが難点。  外の音が聞けなくなるのは大変だとイヤホンは片方にしかつけていない。 「やばい。急がなくちゃ。ごちそうさま!!」  コップに入った牛乳をゴクっと飲んで、洗面所に急いだ。  歯磨きと髪を整えて、さらりと眉毛を描いた。  母には眉毛を剃って抜いていじっていることは内緒だ。校則でメイクは禁じているが、眉毛の無いのは禁止だ。 そこは描かないといけない。 「いってきまーす!!」 ギリギリの7時45分に家を出た。 愛車の自転車は電動ではないが、変速機能がついてて乗り心地は良い。 今朝の天気は快晴で、風もない。 (あ、今日、水、やってない。)  菜穂は自転車に乗りながら、花に水をあげていないことを思い出す。 (ま、いっか。明日、雨降るし。なんとか育つでしょう。というか、お父さんがやってくれるかな。)    高校生ともなると、結構、三日坊主になることが多くなってくる。      小学生の頃は、真面目にコツコツと続けていたことが他のことに興味持つことが多くなり、継続してできなくなるものだ。 「菜穂、おはよう!」  いつも通りの教室,いつも通りの友達、割と私は順応に学校生活を送れてると思っていた。  あいつのことを知るまでは。 「おはよう、まゆ~。」  山口 まゆみ(やまぐち まゆみ)。    高校になってから初めてできた友達だった。中学は違えど、同郷で話は盛り上がる。 「今朝の寝癖も芸術的だね。」 「それは言わない約束っしょ。」 「もう、菜穂はそう言うの無頓着だよね。水で濡らしてブラシでとかしながらドライヤーで乾かせば、1発で直るのに。」 「今朝は寝坊したから尚更整えられなかった。ポニーテールするので手一杯なの。まゆは朝からがんばるよね。アイロンのコテでやってるの?」 「そうそう。可愛いでしょう。コテ専用のスプレーかけてからくるくるってあたためると内巻きになるの。ふわふわのくるっくる~。」  まゆみはクラスの中で女子も男子にも人気なクラスメイト。  その彼女と親友だなんてもったいないすら感じるが、彼女はどうして私といるかがわからない。 「可愛いよ。上手じゃん。」 「ありがとう。今度教えたげるね。」 「え、私は良いかな。毎日はできないし、無理かも。」 「もう、菜穂は女子力低めだなぁ。それだからモテないんだぞ。」  軽く、いや、重く、胸に矢が突き刺さる。  弓道部の矢が飛んできたかな。  自分は見た目だけで選ぶやつはクズだと思ってるからそんなの気にしてないって言ったら嘘になる。  高校デビューして、モテたいなって儚い夢も3ヶ月でダメになる。      継続力がない私。    腕も足も筋肉あるし、髪の毛もそのままだし、本当、かよわい女子になりたいものだわとしみじみする。 「いやあ、私、別にモテたくて学校に来てないし、ほら、勉強しに来てるわけだから。」  メガネもしてないのにメガネをしてるよう雰囲気で、見せつける。 横を素通りした男子がクスッと笑う。  この高校で入学してからこれまで会話一つしたこともない。  名前は、白狼 龍弥(しらかみ りゅうや)。  見た目は分厚めのレンズのメガネをした少し髪の長めのバリバリガリ勉タイプで陰キャラのやつ。  名前の方がカッコ良過ぎて逆に引く。  喋る声も小さいらしいと会話をしたことあるクラスメイトから聞いた。謎の男だった。  その男子が私の横を素通りして、笑ったのだ。なんのゆかりのない人になんで笑われなければならないのか。  不思議でしかたない。 「い、今,あいつ、笑わなかった?」 「気のせいじゃない?誰も話したことないのに笑うって変だよ。友達もいなそう…やめときなよ、菜穂、あいつの関わるの。」 「う、うん。でもさ、あいつ、ずっと1人で過ごしてるけど、凄いメンタルやばくない?なんか、いじめられても全然気にしなさそうだよね。」 「いやいや、ああいうやつほど、やばいって、絶対。構わない方いいって。きっと漫画の殺人ノートみたいなの妄想して書いてそうだもん。」 「ああ…ありえそう。」 「…え、でもさ、確かあいつの妹いなかった?弓道部の。白狼いろはって 双子の妹でしょう。全然似てないけど。二卵性双生児なのかな?双子の話聞きたいけど、兄貴の方はあんな身なりしてるから話しかけづらいよね。妹は本当、気さくで話しかけやすいのに、なんでああなるのかな。」 「家庭によって事情があるんじゃないの?もしかして、親が犯罪者とか?」 「いやいや、妄想し過ぎでしょう。」  机にダンッと大きな音を立てて国語辞典を置く音がした。龍弥がやったようだが、なんも話さない。無意識に出た音のようだ。 「ほらほら、お兄様がお怒りだよ。席に着こう。」 「そうだね。気をつけます。」  龍弥の体から発するオーラが菜穂の方にまで届いた。  3メートル以上あるのに、感じる殺気。なんだろう、この感覚。  クスッと笑われるし、睨まれるし。  話したことないのに、なんでこうなるのか。  心の涙が止まらない。  背中には冷や汗をかく。  あいつは一体何者?!
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