side怜央

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 土曜日の朝は隣に修が眠っている。  それが、ここ半年ぐらいずっと続いていた。  だから…… 「ん――、修――?」  無意識だった。  修を求めて手を伸ばしてしまったのは。  その温もりはないことに気付く。 「――そっか、いないんだった」  大きく伸びをして起き上がる。  バイト何時からだったかな。  ボーっとした頭を覚醒さようと冷たい水を一気に煽る。 「朝飯どうしよ」  いつも修が作ってくれていた。  もうできるよと言って笑う修がいるような気がした。 「友達にならなれるのかな」  セックスをする友達からセックスをしないただの友達に。  違いってそれくらい?  セフレって初めてだからよく分からない。  食パンをトースターに放り込んで、コーヒーの用意をする。  ふとココアの袋が目に入る。  修しか飲まないココア。  これどうするんだろう――。  トーストを齧りながら、部屋を見回す。  泊まりに来ることが多かったから修のものが結構ある。  まとめておいた方がいいかな。  こうしてみると修が俺の日常の中に当たり前のように存在していたと痛感する。   「やば、もうこんな時間か」  トーストをコーヒーで流し込み、慌てて支度を終える。  バイト先までは歩いて10分。  常連さんしかいないこじんまりとした喫茶店だ。  カランコロン 「おはようございます!」 「おはよう  怜央くん、今日はゆっくりだね」  朗らかな笑顔で迎えてくれるのはこの店のマスター。  62歳になる笑顔がかわいいおじさんだ。   「すみません」 「いいよいいよ  まだ誰も来てないしね」  そうは言われたものの急いで着替えを済ませて仕事に取りかかる。  コーヒーの匂いが漂い、穏やかな時間が流れるこの空間がとても好きだ。  一人二人……常連さんが顔を見せ始める。  よし、今日も頑張りますか。  基本的にオーダーを取ったり、注文されたものを運んだりする事が多いが、キッチンに入ってマスターの補助をすることもある。  今日はお客さんが多い日で、それなりに慌ただしく動き回った。 「お疲れ様  もう時間だからいいよ」   「分かりました  今日食べて行ってもいいですか?」 「あれ、珍しいね  用意しとくよ  何がいい?」 「ナポリタンで!」 「はーい」  着替えてカウンターの端に陣取る。  ケチャップの匂いが漂ってきてグーっとお腹が鳴った。 「ほんと珍しいですね  怜央さんいつもすぐ帰っちゃうのに」  俺より1つ年下のバイト仲間みきちゃんがナポリタンを運んでくれる。  おとなしい性格の彼女は程よい距離感で接してくれるから楽だ。  ちなみにめちゃくちゃ年上の彼氏がいる。   「まぁ、いろいろあってね  いただきます!」  フォークに豪快にパスタを絡めて口に入れる。  甘酸っぱいケチャップが絶妙に麺に絡んで手が止まらない。  マスターの料理はうまいんだよな。  あっという間に平らげて一息つく。 「彼女さんと別れちゃったとかですか?」 「えっ、なんで?」 「彼女さんと会ってるんだと思ってました」 「彼女いないよ?  いつも食べてたやつが来ないから」  土曜日の夜もほとんど修と一緒にいた。  修が作ってくれる日もあれば、食べに行く事もある。 「へぇー、いつもご飯食べるって仲良いいんですね  そんな友達いないなー」 「そうかな?」 「元気出してくださいね」 「いや、別に普通だよ?」 「うーん、そうですかね?  ため息多かったし、ちょっといつもより元気がないように見えたんだけどな」  そうなんだ。  普段と変わらないんだけどな。 「じゃあ、帰るよ」 「お疲れ様ー」 「お疲れ様でーす」  カランコロン  二人ののんびりした挨拶を背に受けて、家路につく。  歩きながら修と出会った時の事を思い出していた。
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