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――1年前
「なぁ、章聞いてる?」
俺は従兄弟である章が働く店で飲んでいた。
その日は……そうだ、付き合っていた彼氏と別れて話を聞いてもらっていたんだ。
急に別れようと言われた。
理由はよく分からない。
今まで自分から好きになって付き合った事はない。
男でも女でも告白されてなんとなくいいなと思って付き合ってきた。
「また振られた
どうしてだと思う?」
「お前あんまり好きじゃなかっただろ?」
「いや、普通に好きだと思ってたよ」
「そうかー?
本気じゃなさそうに見えたけど
それが相手に伝わったんじゃないの?」
なんだそれ。
好きって言ったし、大事にしてるつもりだったんだけど。
なんか恋愛って面倒だよな。
「あー、どっかに俺を癒やしてくれるエロい人いないかな」
エロい人ってという章の失笑が聞こえる。
うるさい。
だって猛烈に抱かれたい気分なんだよ。
「あのさ、仕事の邪魔だから帰ってくれない?
また今度話聞いてやるから」
「ひどい、かわいいかわいい怜央くんが泣いてるのに追い出すのか!」
「かわいいかわいい怜央くんは飲み過ぎでちゅね」
「馬鹿にしやがってー
あっ、グラス!返せ!!」
本気で追い出そうとしてやがる。
酷いやつだ。
ぜーったいに居座ってやる。
「ねぇ、俺が癒やしてあげようか?」
声がした方へ顔を向けると、にっこり微笑みながらこちらを見つめる男と目があった。
俺より年上に見えるその人は、柔らかそうな黒い前髪から覗く少し垂れ目がちな瞳が魅惑的で、鼻と唇は完璧なバランスで配置されていて美しいという形容詞がピッタリと当てはまる。
纏う香水のせいなのか佇まいのせいなのか色気があって、俺は目が離せなかった。
タチかな?タチであって欲しい!
前言撤回。
「じゃあ、お願いしようかな?
章ー、帰るわ」
誘いに乗って帰ることにする。
章は飽きれたような顔でこちらを一瞥した後何事もなかったかのように仕事に戻っていった。
「でさ、お兄さん
俺ネコなんだけど、大丈夫?」
「バリタチ
優しく抱いてあげるよ」
うっわー、大当たりかも?
こういう出会いって初めてだけど、落ちてるとこには落ちてるんだな。
前の彼氏はネコだったから、抱かれたかったんだよね。
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