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なんの連絡もないまま、1ヶ月が経とうとしていた。
久しぶりに章のとこ行くか。
金曜日の夜だからか人が多い。
行き交う人々が楽しそうに話している。
何気なく視線を向けた先によく知る顔があった。
修だ。
その隣には知らない男。
楽しそうに笑いながら歩いている。
あぁ、そうか。
彼がその人なのか。
現実を突きつけられた気がした。
心の何処かで、修に好きな人がいるということを信じていない自分がいた。
また自分のところに来るんじゃないかって……
「なんだ、お似合いじゃん……」
踵を返して今来た道を戻った。
なんとなく今日は飲んだら悪酔いしそうな気がしたから。
胸の中がモヤモヤとする。
あいつはただのセフレだろう?
それなのにこの気持ちは――。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま一日を過ごし、翌日気付いたら章の店に来ていた。
「あれ、怜央ひとり?」
「うん」
「修一くんは?
喧嘩でもした?」
「修とはもう関係ないし」
「どういう……」
「あれ?修ちゃんのネコちゃんじゃない?」
章の声に重なるようにその声は聞こえた。
修ちゃんのネコ?
章と顔を見合わせて、その声の主の方を見る。
どこかで会ったような……?
「どこかでお会いしましたか?」
「いや、一方的に知ってるだけ」
ニコニコ笑いながら俺の隣に腰掛ける。
どこだ?この顔どこかで……
あっ、思い出した。
昨日修の隣にいた男だ。
最悪、1番会いたくない男。
「へぇー、やっぱりめちゃくちゃかっこいいね」
マジマジと俺の顔を見つめてくる。
無性に腹が立つのを堪えて笑顔を返す。
「ねぇ、修ちゃんのこと好き?」
「は?何言って……」
何を言ってるんだ、この男は?
追い打ちをかけるようにさらに、どうなの?と聞いてきた。
「そんなわけないじゃん」
えー、そうなの?と疑わしげな目をしてくる
「あなたは修の事好きなんでしょう?」
「そりゃあ大好きよ
だって……あっ、電話だ
もしもしー?」
そのまま去っていった。
「あの人誰?」
「たぶん修の好きな人」
「は?お前ら別れたの?」
「いや、付き合ってないし」
「マジ!?
あれで付き合ってないの?
修一くんはお前にぞっこんって感じしたし、お前もそんな感じだったからてっきり付き合ってんのかと思ってたわ」
「ただのセフレだよ
元だけど」
「ただのセフレねー?
でもお前は好きなんじゃないの?」
「……」
とっくの昔に気付いていた。
今までに思っていたものとは違う、他の誰にも感じたことのない初めてのこの感情。
好きだから会えなくて寂しいと思った。
好きだからあいつに嫉妬した。
好きだから見たくなかった。
修のことが本気で好きだから……
ただ認めたくなかった。
いまさら気付いたところでどうにもならない……。
「気持ち伝えてみたら?」
「無理だよ」
「後悔しても知らないぞ」
「うるせえ」
修には好きな人がいるんだぞ?
玉砕する事が分かっているのにそんな事をしてどうなるんだよ。
このまま会わずにこの気持ちはなかったことにしたほうがいい。
修には好きな人と幸せになってほしい。
あの日見た修の笑顔が脳裏に浮かんだ。
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