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「うそつき」  呆然として、けれど口からは勝手に言葉が出た。 「うそつき、うそつき!」  あたしは傘を叩きつけ、一人で叫ぶ。雨降りの音がそれをかき消す。  パラパラ、パラパラ、パラパラとあたしを馬鹿にするように。  あたしはこの感情が何か知らない。わからない。気持ちが育っていないから。育ててきていないから。 「……」  七色の飴を、河川敷に落ちるあれを食べたらわかるんだろうか。ドーナツの穴を埋めるように、胸に空いたぽっかりとした気持ちが癒されるんだろうか。 「……」  折れた傘を投げ捨て、あたしは空を見る。  七色の雨、飴、雨。感情を育むみなもと。嫌悪しているそれをにらんで、セーラー服のスカートを握りしめた。  もういないあいつのために泣けるのなら。  二度と会えないあいつに抱いた気持ちがわかるなら。  あたしは、そっと草むらに足を踏み出す。体にパラパラと飴が、当たる。  手のひらを出してみた。落ちてきた赤と青の飴が、豆粒みたいにきらきら輝いている。  あたしは、食べた。  がり、と音を立ててかみ砕く。飲みこむ。  途端にこみ上げてくるのは、熱いもの。胸に、瞳に、ぞくぞくとした何かがこみ上げてくる。  目の端から出てくるのは、涙。周りの光景がわからないくらいにぼやけた視界で、あたしは自分が本気で泣いていることに気付いた。  でも、まだ、わからない。胸は熱くて動悸もするけど、あいつに抱いた気持ちに言葉がつけられない。  膝をつき、天を仰いだ。泣きじゃくりながら大きな声で叫ぶ。 「降って。もっと降って!」  あらゆる色の雨を、食べる。豆粒が体にも顔にも口にも当たり、跳ね返ってきらめいた。  両手に落ちた雨を、飴をむさぼる。夢中で、雨を嫌いだった気持ちを、つまらないプライドを、何もかもを捨てて食べ続ける。  口の中が甘ったるい。それでも食べた。もやもやの正体を知るために。気持ちに整理をつけるため。  食べていくうちに涙が止まる。胸が高鳴る。  悲しみ、喜び、怒り、苦しみ――ありとあらゆる感情が押し寄せては、消えた。ぷつりと糸が切れたように。 「あ」  気持ちが一気にフラットに、平らになって胸が落ち着く。 「……あたし、なんで」  立ち上がる。周囲を見渡し、目をまたたかせた。橋の下に折れた傘と鞄が落ちている。 「ああ、そっか。なんでもないんだ」  笑って涙を拭いた。  結局のところ、あの『傘差し男』とあたしの関係は傷の舐め合いみたいなものだ、そう気付いて。  幽霊だかなんだか知らないけれど、きっとひとりぽっちのあたしに神様がくれたギフトだったんだと思う。  でも、もういらない。  傘差し男は『今』のあたしと違うから。  傘を差す必要もなくなった。雨を怖いと感じることもなくなった。あれほど嫌悪していたのが嘘のように気持ちが晴れやかだ。  橋の下に戻り、鞄や参考書を片付ける。ふと視線を落とすとドーナツの入った箱があった。 「ばいばい、傘差し男()()」  壊れた傘とドーナツははもう、必要ない。   ※ ※ ※  今日も七色の雨が降る。  赤、青、黄色、緑、オレンジ、他諸々。豆粒みたいなそれが家屋に当たるたび、パラパラと小気味よい音を立て、地面に落ちては消えていく。  どうしてあたしはこれを毛嫌いしていたのか、今ではもうわからない。理解することは一生ないだろうし、知る必要もないだろう。  休日の自宅、自分の部屋で空を見る。散らばる七色の素敵な輝きにあたしは笑う。 「もっと降れ。美味しい雨、もーっと降れ」                        【元】

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