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失恋(8)
雨の音が静寂の空間にゆっくりと走る。
部屋は電灯が付いているのにどこか薄暗く、酸素を送る機械の小さな音とパソコンのキーボードを打つだけが響く。
「あの子の話しの通りだね」
白髪の男は、ベッドに横たわったまま力のない笑みを浮かべて少し離れたパイプ椅子に座って膝に置いたノートパソコンを打つ看取り人を見る。
看取り人は、キーボードを打つ手を止めて白髪の男に三白眼を向ける。
「目が覚めましたか」
「お陰様でね」
白髪の男は、目だけを動かして部屋の中を見回す。
「まさか、またここに戻ってくるとは……ね」
白髪の男は、小さく嘆息し、痛々しく咳き込む。
節目の多い天井、白い壁、温かみのある色合いの質素な家具、身が沈むような介護ベッド、そして呼吸すら自発でままならなくなった白髪の男に酸素を送る機械。
ここはホスピス。
決して治ることのない病気に侵された人間が安らかに逝くための最後の棲家。
そして……。
「君が看取り人だね?」
白髪の男は、窶れた顔に笑みを浮かべる。
「はいっ」
看取り人は、キーボードを打つのを止める。
「僕が看取り人です」
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