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失恋(7)
白髪の男の姿を見つけると先輩はまた泣きそうになった。
彼は、いつものベンチに座り、いつものようにバインダーに向き合い、先輩が来たことが分かるといつものように優しい笑みを浮かべて手を振った。
先輩は、涙を押し込め、笑みを浮かべて小さく手を振る。
「今日も時間通りだね」
「おじさんも」
先輩は、何も言わずに白髪の男の左隣りに座る。
そこで先輩は白髪の男の顔が昨日よりも白いことに気づいた。目も窪んでおり、唇もカサついており、呼吸も昨日より浅いような気がする。
「おじさん……具合悪いですか?」
「少し風邪を拗らせてしまったみたいでね。大したことないよ」
白髪の男は、小さく笑う。
その笑みもどこか力がない。
「それよりも……手紙……書かないのかい?」
白髪の男は、座ってもバインダーを飛び出さない先輩を怪訝そうに見る。
先輩は、視線をスクールバッグに向け、そして戻す。
「もういいんです。伝えたいこと……無くなっちゃったんです」
白髪の男は、眉を顰める。
「それは……もう彼に言葉で伝えたということなのかな?」
白髪の男の言葉に先輩は少し躊躇いながらも頷く。
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