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小さく、力なく言葉にする白髪の男は何故か年齢よりも年老い、儚く見えた。
「君が側にいてくれたら……書けそうな気がするんだ。付き合ってくれるかな?」
「……はいっ」
先輩が頷くと白髪の男は安心したように笑い、万年筆を手に取ってバインダーに挟んだ便箋に向いた。
先輩は、何も言わずじっと白髪の男を見守った。
白髪の男は、便箋に万年筆の先を付ける。
押し付けられたペン先から黒いインクが沈むように滲み出る。
「僕はね。罪を犯したんだ」
白髪の男の突然の告白に先輩は切長の右目を震わせる。
白髪の男は、万年筆のペン先を便箋の上を歩むように進ませる。
「その時、僕は大学三年生で……一年留年してたので二十歳を超えていた。僕は……焦っていた」
「焦っていた?」
先輩は、首を傾げる。
「君は、性に興味はあるかい?」
白髪の男の質問に先輩の顔は一瞬で真っ赤になる。
「それは……そそそ……れれられ」
先輩は、動揺しすぎて言葉も舌も回らなくなる。
その様子を横目で見て白髪の男は小さく笑う。
「恥ずかしがることはないよ。若者の当然の欲求さ」
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