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先輩は、恥ずかしさのあまり白髪の男の顔を見ることが出来ない。
白髪の男は、万年筆をゆっくりと動かしながら話しを続ける。
「その頃の僕も若者らしく性欲の塊だった。授業やバイトの時以外は四六時中いやらしいことばかり考えていたよ」
先輩は、白髪の男の言葉が信じられなかった。
目の前にいる男はとても優しく、儚げで、どこか達観していて、とてもそんな俗物とは結びつかなかった。
「で、話しは戻るけど僕は焦ってたんだ」
「何に……ですか?」
先輩は、恐る恐る訊く。
「童貞であることにだよ」
「ふえっ?」
先輩は、空気が抜けるような間抜けだ声を上げる。
白髪の男は、先輩の反応が面白くて、可愛くて思わず口元を緩ませながら、万年筆を動かす。
「僕は、性欲の塊だった。四六時中いやらしいことばかり考えていた。だけどまったく僕は女の子にモテなかった。周りが彼女だ、卒業したら結婚だと叫んでいる中、僕は女の子と手を握ったこともなかったんだ」
先輩は、白髪の男の言葉を信じられなかった。
こんなに優しく、見ず知らずの自分のことを受け止め、受け入れてくれるような包容力のある人がモテないなんてあるのだろうか?
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