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「若いうちはね。内面よりも外見や持っている能力に惹かれるものなんだよ。強い者に、美しい者に抱かれたい。生き物の性だね」
そうなのだろうか?
少なくても自分はそんなこと思ったこともなかった。
自分が彼に惹かれたのは外見でも能力でもなく、暗い帷のようなものの奥に隠された圧倒的な優しさと強さだ。
見かけとか能力なんて生優しいものじゃ決してない。
白髪の男は、先輩を横目で見て笑う。
「自分はそんなことない……って顔だね」
「いえ、そんな……」
先輩は、慌てて誤魔化す。
「恥ずかしがることはない。君の価値観は素晴らしいものだよ。誇るといい。でもね……」
白髪の男の顔から笑みが消え、視線が便箋に戻る。
「世の中の人間というのは大半が俗物なんだ。僕みたいにね。欲を払うことが出来ない愚か者なんだ。だから……罪を犯してしまう」
白髪の男の目が細まる。
呼吸が荒くなる。
「僕はね。童貞を捨てたかった。溜まりに溜まった欲求を吐き出したかった。だから僕は……彼女を買った」
先輩の切長の右目が震える。
男は、万年筆を動かす。
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