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そして驚く彼女と一緒に何も言葉を交わすことなく彼女の部屋に行き……狂おしいほど寝た。
「彼女に会ったのは後にも先にもそれきりだよ」
白髪の男は、万年筆を動かす。
「何回も混じり合い、泥水のように眠りにつき、目が覚めたらもう彼女はいなかった。保護したはずの白い猫もいなかった。あったのは小さなおにぎりが二つと鍵は閉めなくていいから、という書き置きだけだった」
白髪の男は、言い終えてから恥ずかしそうに笑って先輩を見る。
「若い子には聞き苦しい内容だったよね。ごめんね」
「いえ……そんな……」
先輩は、身を小さくして言う。
正直、なんと言っていいか分からなかった。異性の、しかもあまりに生々しい欲望に塗れた性欲の話しに先輩の頭の中は小さなパニックを起こしていた。
しかし、そんな中でも小さな疑問が生まれる。
先輩は、切長の右目を白髪の男に向け、口を開く。
「その手紙は……その女の人に向けたもの何ですか?」
先輩は、おずおずと口にしながらもその質問は間違っていることに気づいていた。
彼は、昨日の別れ際にはっきりと言った。
この手紙は会ったこともない誰かに渡すための物だ、と。
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