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「僕は……すぐに地元の警察に連絡し、自分がその子の父親かもしれない。会わせて欲しいと伝えた。しかし、当然だけど警察は取り合ってくれなかった。個人情報もあるし、僕の言葉はあまりに不審だ。信用なんて出来るはずもない」
白髪の男は、苦しげに浅い呼吸を繰り返しながら話す。
万年筆が震え、一文字書くたびに命を削るような音を立てる。
先輩は、白髪の男に手を伸ばしたいのに……出来ない。
彼から溢れる気迫がそれを拒否していた。
「それでも僕は諦めきれなかった。有り金を叩いて興信所に依頼し、子どもを探し出した」
切長の右目がバインダーに挟まれた封筒に向く。
「僕は、子どもに会いに行った。子どもを引き取ったと言う女性に頭を下げ、会わせて欲しいと懇願した。門前払いを食らったよ。これ以上あの子を苦しめるな!恥をしれ!と罵られたよ。当然だ。今の今まで知らぬ存ぜぬだった癖にいきなり現れて合わせろなんてどの口が言うのかと自分でも思う……でも」
白髪の男はの目から力なく、涙が流れる。
呼吸が痛々しく荒くなり、全身が震えだす。
しかし、白髪の男は万年筆を離すことなく、便箋に文字を書き込む。
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