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「ようやく手紙が書けましたね。おめでとうございます」
先輩は、小さく笑みを浮かべる。
しかし、白髪の男に反応はない。
「万年筆のインクが溢れちゃったね。今度、一緒に清書しましょうか。私も付き合います。そしたら……渡しにいきましょう。その子もきっと受け取ってくれるから」
しかし、白髪の男からは反応がない。
「おじさん?おじ……」
先輩は、白髪の男の顔を望み込み……絶句する。
白髪の男は、半目に小刻みに震え、口から泡のようなものを吹き出していた。
それは……まるで……死んでいるかのような。
「いやああああ!」
先輩の口から絶叫が迸る。
「いやだ!おじさん!おじさん!」
先輩は、白髪の男を揺さぶる。
しかし、男に反応はない。
先輩は、おじさん、おじさん、と叫びながら必死に白髪の男に呼びかける。
異変に気づいた周りが二人に駆け寄り、声をかけ、救急車の手配を始める。
しかし、先輩はそんな周囲の声も耳に入らなければ、動きも目に入らない。
必死に……必死に……白髪の男に呼びかける。
いやだ!
死なないで!
いなくならないで!
私を……私を一人にしないで!
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