その後の二人

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「はい、お待ちどうさま」  おでん定食を運んできたおばさんが、トレイをカタンと俺の前に置き、忙しく戻っていく。  よく見ると、店の中は夕食時なのか満席だった。 「俺ってもしかして得してる?」 「僕のおかげでね」 「やっぱり?」 「今頃? だいたいここの店を教えた時点で得してると思うんだけど……」 「「美味しいから」」  はもるように言葉にすると、何だか可笑しくて、やっと顔を見合わせて笑った。  忙しくて、ここ何日もまともに連絡さえ取れてなかったから、今のこの瞬間がすごく幸せに感じる。  初めは君の素っ気なさにムッとしてしまったけれど、そんなこともうどうでも良かった。 「あー、やっぱりここのおでんは美味しい」 「うん、美味しいね」 「颯天はさ、どうして俺にここを教えてくれたの?」 「なんで?」 「いや、だって前に俺にしか教えてないって言ってたから……」 「ああ、覚えてたんだ……」 「うん……」  どことなく流れる緊迫した空気に、俺が思わず俯き加減になってしまう。  君は黙ったまま何かを考えているようで――それ以上は何も聞けない。 「珠利だったから……」 「えっ……?」 「珠利だったから教えたんだ」 「俺……だから?」 「そう。一つの賭けだったのかも……今思えばね」  思い出したように、ふふっと鼻で笑う君がどこか少年っぽく感じる。  その先の言葉が知りたくて、俺は『賭けって……?』って問いかけてみた。 「そんなの決まってるじゃん……。珠利が僕に会いに来るかどうかの賭けだよ」 「なんで……そんな?」 「ここに来るってことは、ちょっとは僕のこと気にしてくれてるってことだし、会いたくなければわざわざ来ないだろ?」 「そんなの……おでんが食べたかったから……」 「ふーん……今までずっとそれだけだったの?」 「どういう意味だよ……」 「そういう意味だけど……。僕に会いたいって思ってたから来てたんだろ?」  少年っぽく笑った顔はどこかへ消え、意地悪いどこか試すような口調で、俺を真っ直ぐ見つめてくる。  そんな答え――聞かなくたってわかってるくせに……――。 「そうだよ……。悪いか?」 「悪いわけない。言ったはずだよ、珠利が僕に会いに来てくれてるか賭けてたって……」 「は、やて……?」 「今日はどうする? 店を出たら別々に帰る? それとも、うちに来る?」  その答えは――もう決まっている。  聞かなくたって、俺は君に会いたくてここへ来たんだから――。 「一緒に帰る……」 「そう言うと思った……」  君だってわかっていただろ?  俺が何て答えるかくらい――。  だって、俺はもう君のことで頭がいっぱいなんだから――。
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