その後の二人

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 ごはん屋さんを出て君のマンションへやってきた俺たちは、ソファで寛いでる。  肩が触れる距離にいるのに、やっぱり君はそれ以上触れてこない――。  二人きりになっても、手も繋いでくれない――。  もっと、もっと、俺は君を近くに感じたいのに――。  だんだんと胸がきゅって苦しくなってきた。 「そんな怖い顔して……僕の顔に何かついてる?」 「べ、べつに……」  俺の視線に気づいた君がわざと覗き込むようにして問いかけてくるから、慌てて顔を逸らした。 「嘘つき……言いたいことあるんだろ?」 「そんなことない……」 「強がりなんだから……」 「うるさい……」 「ほんとに、珠利は可愛いね。そんなに僕のことが好き?」 「なっ……」  覗き込んでいた顔がすっと近づいてくる。  見つめられたままの視線は逸らすことができない。 「触れてほしいって思ってる?」  また顔が近づいてくる――。 「キスしたい?」  角度を変えて更に近づいてきた顔に、俺は思わず目をぎゅっと閉じた。  それなのに、いつまで経っても何も起こらない――。  俺はうっすらと瞳を開けていく――。 「なんで……?」  あんなに近づいていた顔は離れていて、君は俯いたまま、膝の上で自分の手を組んでいた。 「俺……そんなにダメなの?」 「違うよ……」 「じゃあ、どうして?」 「触れたら……もう止められなくなるから……。珠利が欲しくてどうしようもなくなるから……」 「颯天……」 「もっと、もっとって求めてしまうから……」  同じなんだ――俺たちは、きっとお互いを求めてる――。  触れたくて触れたくてどうしようもないのに拒絶されるのが怖くて、踏み出すことができないでいるんだ。  こんなに好きで堪らないのに――。 「ねえ颯天……俺に触れてよ。ぎゅって指を絡めてよ。キスしてよ。俺はずっと触れて欲しかった。颯天に触れたかったんだ……」 「珠利……」 「どうしようもないくらいに好きなんだ。颯天のことしか考えられないくらいに愛しいんだ。だから……我慢なんてしなくていい」 「離してあげられなくなるよ? それでもいいの?」 「俺はもう颯天から離れられない……。もうとっくに颯天だけなんだよ……」 「珠利……」 「好きなんだ……颯天が……。俺の全部をあげるから……」 「僕も珠利が好きだよ。ずっと、ずっと、好きだった……」 「うん……」 「もう触れていい?」 「いいに決まってる……。いつまで待たせんだよ」 「じゃあ、遠慮なく……」  組んでいた指をほどき、ちょっと強引に引き寄せられると、ふわりと抱きしめられる。  温かい……――。  ずっとこうして抱きしめて欲しかった――。  君を近くに感じたかった――。 「あー、僕は今……きっと情けない顔してる……」 「どんな顔?」 「だめ……。やっと抱きしめられたのに……」 「だって、どんな顔か気になるじゃん……」 「見せるわけないだろ?」  そう言って腕の中から抜け出そうとした背中にきつく腕を回された。  君がどんな顔をしてるのか気になるけど、今はこのままでいい。  やっと感じることのできた君の温もり――。  抱きしめる腕の強さ――。  俺もそっと君の背中に腕を回す。  付き合いはじめて気づいたこと――、俺は颯天のことが大好きだってこと。 付き合いはじめて気づいたこと――、颯天も俺のことが大好きだってこと。  離れられないくらいに愛しくて、もっともっと触れて欲しい。  もっともっと触れたい。  そのくらい俺の中は君でいっぱいなんだ――。  ふっと抱きしめられていた体が解放され、ゆっくりと顔をあげる。 「やっぱり、止められない……」  そう言って、君の顔が近づいてくる。  ゆっくり目を閉じると、唇が重なった。  そして、俺たちはそのままソファに体を沈めていった。 END.
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