出会い編

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 入社式に間に合うようにと、就職祝いで両親からスーツ、ビジネスバック、ネクタイ、靴などの一式をプレゼントされ、それを着て僕は入社セレモニー会場へとやって来た。  受け付けにいる人へと近づき、『新入社員の池脇颯天(はやて)です』と伝えると、社員証を渡され、中へ入るように言われる。  そのまま中へ入って行くと、たくさんのイスが並べられていて、その一つに姿勢良く座っている男を見つけた。  それが誰なのかは、後ろ姿だけでもすぐにわかる。  間違えるはずなんてない――。  あいつの名前は、今井珠利だ。  あいつも合格したんだ――。  ゆっくりと近づいていき、自分の名前の書かれているイスへ腰を下ろすと、少し離れた場所にいるそいつに視線を向ける。 ――どくん――  真っ直ぐに前を向いている横顔があまりにもキレイで、胸の奥がどきっとした。  しばらくすると、お互いの隣にも同じように新入社員である人たちが座り始め、いつしか会場には全社員が集まっているようだった。  代表の挨拶から始まり、お祝いの言葉や会社についての説明などが一通り終わると、新入社員紹介と一人一人の名前が呼ばれ、前へ出るようにと声がかかる。 「企画課配属、池脇颯天」 「はい」  ここで初めて自分の配属される部署が明らかになり、ゆっくりと前へ出て行く。 「インターナショナル開発課配属、今井珠利」 「はい」  座っていた場所が違っていたことから、何となく部署が違うことは予想していたけれど、やっぱりそううまくはいかないものなんだとつくづく思う。  イスから立ち上がると、そいつも前へと出てきて、すーっと僕の隣に立った。 ――へえ、結構背が高いんだ――。  僕よりも少しだけ背が高くて、ゆるくカールした髪、まつげがくるんと上を向いていて、ぷるんとした肉厚の唇は、目が離せなくなりそうなほど赤くて、思わず見惚れてしまう。  男のそいつにどきどきしている自分に戸惑いながらも、僕は何となくその答えに気づいていた。 「それでは、新入社員代表の今井珠利さんより、挨拶をお願いします」 「はい」  一歩前に出ると、マイクを手渡され、そいつは軽く会釈をして、 「新入社員の今井珠利です。今日からここにいるメンバーが新入社員としてお世話になります。会社のために全力で精一杯力を出して行きますので、ご指導のほど、よろしくお願いします」  言い終わり、もう一度会釈をすると、マイクを手渡し、元の位置へと戻ってきた。  何だ、今日は当たり障りのない言葉でまとめている。  そう思っていたら、すーっと体を動かして、『すみません』と小さく言ってマイクを再び手に取ると、 「俺たちは、ここに何もわからないまま立っています。これから色んな迷惑もかけると思います。それでも俺たちを必要としてくれたこの場所で、自分のやるべきことを見つけ、精一杯あがいてみせます。だから、みなさんも全力で向き合ってください。そうすれば、必ず人は成長するから。ちゃんと向き合えば、分かり合えると思うから。いい関係を築いていけると信じています」  会場からは、『なかなか言うな、あいつ』とか、『すごいなぁ』とか、色んな言葉が飛び交っている。  僕もそいつの後ろ姿を見つめながら、『やるじゃん!』って思った。  でもその後、僕はこっそりと見てしまったんだ。  言い終わった後に、誰にも気づかれないように、そいつがぐっと拳を握りしめていたことを――。  そして、その肩が微かに震えていたことを――。  その日から、僕の視線の先には必ずそいつがいた。  気がつけばそいつを目で追っている自分がいる。  僕はきっと、初めて会ったあの日から、今井珠利に惹かれていた。.
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