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仕事帰りに立ち寄ったコンビニから出て少し歩いたところで、見覚えのある男が女と一緒にいるのが目に留まる。
誰が見ても美男美女のお似合いカップルで、見ているだけで見入ってしまうような、そんなカップルだった。
僕の胸がきゅうっと締めつけられていく――。
あいつ……彼女いたんだ――。
そうか、だからあいつは全てのことに一生懸命だったのか。
そうだとしたら、今井珠利が隣にいる女のことをどれだけ大切に思っているのかが悔しいくらいに伝わってきて、どこにも自分の入る隙なんてなかったんだと思い知らされる。
二人の後ろ姿を見つめながら、きつく拳を握ると、僕は体を回転させて別方向へと歩いていた。
マンションのある方向へ帰ることができなくて、仕方なく近くの公園でコンビニで買った弁当を食べていると、さっきあいつといたはずの女が、別の男の隣で幸せそうに笑っている。
僕は、持っていたものを全て地面へ落とし、その女へと近づいていく。
「おい、あんた……」
背後から声をかけると、驚いたように二人とも足を止め、振り返ってきた。
「お前、誰だよ?」
「お前じゃない! そっちの女に用がある」
「わたし……?」
「あんた、あいつはどうした?」
「あいつって?」
「さっきまで一緒にいたやつは?」
「ああ……、彼とはさっき別れたわ」
「な、んで……?」
「そんなこと、あなたには関係ないでしょ?」
「だって、あいつは……」
もしかして、一人で泣いているんじゃないかと思った。
まさか、自分の好きな女が他の男と一緒にいるなんて思ってもいないはず――。
あいつは、この女のために必死で足掻いていたはずだから――。
「あいつは、僕がもらう。文句ないよね?」
「えっ、ちょっ……、だって珠利は男よ」
「そんなの関係ない。好きな気持ちに男も女もないから……」
「冗談でしょ?」
「冗談なわけないだろ。もう二度と今井珠利に近づくな」
僕は、真剣に女へと話をしている。
真っ直ぐに、女の目を見つめたまま逸らさずに――。
「お前、さっきからキモイんだけど……」
「うるさい! 僕はこの女と話してるんだ。あんたは黙ってろ」
「何だと!」
「いいから! もういいから。私にはもう関係のない人よ。あなたの好きにすればいい」
「あいつの気持ち……あんたには伝わらなかったんだな」
「珠利の気持ち……?」
「悪いけど、わかんないやつには教える価値なんてない。それじゃあ」
二人に背を向け公園へ戻ると、地面へ落とした弁当を拾い、僕は袋を手に持ったまま駆け出した。
どこにいるかもわからないあいつを探して――。
きっとまだ、そんな遠くへは行ってないはずだ。
でも、結局この日はあいつの姿を見つけることはできなかった。
次の日、いつも通りに僕の前を歩く姿を見つけてほっとした。
もしかしたら、今日は来ないんじゃないかと思っていたから――。
だけど、その目は真っ赤で、腫れぼったくなっているのが離れた場所からでもはっきりとわかる。
それなのに、声をかけてくる同僚や先輩たちには、いつもと変わらない笑顔で接していた。
何もできない自分がいたたまれないけれど、今はまだどうすることもできないのが現実で、行動を起こせずにいた。
そうこうしている間に、会社全体の親睦会という名の席が催された。
今井珠利は、用意されていたグラスを続々と空っぽにしていく。
酒は弱そうに見えないけど、あんな飲み方をしていたら、誰だって悪酔いする。
面白がって煽ってたやつらも、いつの間にかそいつから離れて行ってしまった。
――ほら、やっぱり……――。
気分が悪くなったそいつは、口元を押さえながら、慌てて部屋を飛び出して行く。
僕は、静かにその後を追った。
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