BL、ときどき天文研究部(仮)

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 4月11日 雨  みなさんおはようございます。三原裕人です。ふぁ〜あ…失礼。昨晩から、あまり眠れていないんですよ。ちょっと色々と、個人的に思う所があってですね。  いや、大した事じゃないです。昨日会ったばかりの後輩に、何であんなに突っかかったんだろうって。人間関係も、広く浅く衝突せずをモットーにしてきたつもりですが。考えていたら、ウジウジウジウジと思い悩んで…。ほとんど一睡も出来ず、今に至るって訳ですね。試合前日の方が、よっぽど熟睡してたような気もします。  朝練もないんだから、もうちょい寝てりゃいいんだけど…。悲しいかな、早起きの習慣が抜けません。そしてこの時間帯は、案の定の満員電車です。足を地面につける事すら、満足に叶いません。加えて朝からの雨で、どうにもテンションが上がらない。  こんな精神状態で、堀北に顔合わせでもしたら嫌だなぁ…。と思っていたら、やっぱり同じ車両で乗り合わせました。正確には、俺よりも2〜3ほど後の駅で乗ってきたんですけどね。今日も今日とて、部員の勧誘でもするらしい。あいにくの雨で、ほとんど集まらないとは思いますけどね。どうでもいいけど、湿気のためかネコっ毛になってるのがちょっと可愛い。  向こうも俺に気づいたらしく、何か言いたそうだったけど…。人波に勝てず、反対方向に押しやられていました。何を話すか迷っていた所なので、ちょっと安心した。これはこれで気まずい事に、変わりはありませんけどね。今日も壁ドンしちゃうよりは、マシだったんじゃないかなぁ。  ふと見ると背後の会社員に、これでもかってくらい密着されていた。ははっ。昨日と言い今日と言い、災難だったな。例の女子高生たちがいたら、また撮影でもされてたんじゃない?…って言うか。  あれってどう見ても、不可抗力で近づいたって感じではなく…。故意に、密着されてる?その上、尻とか触られてる?何なら、揉んでまさぐってそれはいいように弄ばれている?こ、これはいわゆる一つの…痴漢だ!お…男同士でも、あるんだなこう言うの。元カノが持ってたBL本では、よく見かけた状況だけどさぁ。まぁ俺も男同士ではないけど、見知らぬ女に触られた事なら…。って、今その情報はどうでもいい!  ああ言うオッサンは、男性専用車両にでもブチ込んどけよな…。って、それじゃ根本的な解決にならんのか。あいつをブチ込むべき先は、刑務所のブタ箱の中だ!ええい女子高生。何で、こんな時に限っていないんだよ。こう言う犯罪現場こそ、お前らのスマホに収めとけよな。い、いや。他力本願は良くない。この俺自身で、早く何とかしないと…。クソッ。ここからだと、角度的に撮影が難しい。  ってか、なに日和ってんだよ。相手は堀北より背が高いとは言え、俺より一回りも二回りも小さいようなオッサンでしょうが。何のために、今まで必死に身体を鍛えてきたと思ってるんだ?まぁバスケのためであって、痴漢を撃退するためではないけどね。とりあえず、ウダウダ考えているより行動だ!  満員電車なので、自由に動けないと思いきや…。案外みなさん、どうぞどうぞって感じで道を譲ってくれた。おおかた、痴漢には気づいても見て見ぬ振りしてたんだろう。俺も日和っていたので、あまり悪くは言えない。助けに行くのって、思ったよりかなり勇気がいるぞ…。さっきから、心臓の音が自分で聞こえてきそうだ。  「おい、あんた…」  それでも、やっとの事でオッサンの肩を掴んで声をかけた。すると、さっきまで堀北の尻を弄んでいたオッサンが急にこちらを振り向いた。そして、勢いに任せ裏拳かましてきやがった。クッソ痛てぇ!  な…殴ったね!親父にも、殴られた事ないのに!…って、流石に、殴られた事くらいはありますよ。でも、本気で顔面殴られたのは生まれて初めてだ。BLの攻めは顔が資本なんで、傷をつけるのは勘弁してほしい。  怯んでいる間に、電車が次の駅へと到着した。そこで、隙をついて流れるような動作で逃げやがった!さては、慣れてやがるなこのオッサン。そこらへんのPG(ポイントガード)より、よっぽど華麗な身のこなしだったぞ…。って、褒めてる場合じゃねぇ!  野郎。地の果てまで追い詰めて、警察に突き出してやる…!と追いかけそうになった所を、背後から堀北に呼び止められた。お互いすでに、電車からは降りてしまったんですけどね。いつも通学途中に通ってはいたけど、こんな事でもなければ降りた事もないような辺鄙な駅のホームです。  「ま…待って下さい。先輩。あんな奴、追いかける事ないです。俺なんかのために、無茶しないで下さい…」  必死の形相で、そう言った。やっぱり、いい子だよなぁ…。と感心しかけたけど、そんな甘い事は言ってられない。今を逃したら、一生捕まえる機会はないぞ。そう思って、再び駆け出そうとした所…。  「一部始終、俺のスマホで撮影してますから。もちろん、先輩を殴った瞬間も。動かぬ証拠として、警察に提出してやりましょう」
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