BL、ときどき天文研究部(仮)

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 「それじゃ三原先輩、痛かったらゆってくださいね。はーい、ちょっと染みますよぉ…」  みなさん、おはようございます。三原裕人です。とっくの昔に一限は始まったので、「こんにちは」でも良かったかも知れない。このあと警察との対応も控えているので、マジで学校に着く頃には何時になってるやら。…このまま、何もかもバックレてやろうかな。サボリなんて、今まで一度もした事ないけど。  イテテテ。俺たちが一体、どこで何してるかって?(不可抗力で)降りた駅の駅長室で、駅長さんに事情聞いてもらってます…。ついでに警察も呼んでもらったので、このあと聴取される予定。学校にも、遅れる旨の連絡をしてもらいました。男性同士の痴漢被害が初めてではないらしく、「これも、時代かねぇ…」とか何とか嘆いている。嘆く暇があったら、何らかの対策施せよな。難しいんだろうけど。  救急箱を貸してもらって、堀北から手当を受けていました。手慣れた手付きだったけど、それでも痛いもんは痛い。顔面、しこたま殴られたからなぁ。もし正直に「痛い」って言ったら、どう返すつもりだろう。  「男の子でしょう?泣きごと言ったら、めっですよっ!」  …うん、言いそう。想像して、ちょっと萌えそうになった。いかんいかん、心頭滅却!俺は、ストレートですからね!そうそう、手慣れてるで思い出したけど…。  「…冷静に撮影してるとか、結構落ち着いてたんだな。俺、気づかなくてさ。格好つけて、助けに入る必要なかったかな?」  「そんな事ないですよぉ。内心は、めっちゃビビって震えてましたから。三原先輩が来てくれて、本当に助かりました。俺は、ちょっとこう言う事態に慣れてるだけで…。いや、何でもないです。それより、こうしていると思い出しますねぇ」  「何を?」  「何をって…。覚えてません?まぁ、仕方ないです。俺、何度か保健室で先輩と会ってましたけど」  「あっ…」  そうだ、今更思い出したぞ。どっかで見た顔だとは思ってたんだ。俺、昨年まではバスケ部の練習でしょっちゅう怪我してて…。その都度、保健室のお世話になってた。うちの学校の保険医は、グウタラな野郎でさ。簡単な手当くらいは、保健委員に丸投げしていた。当然、男同士で怪我の手当てとかみんな嫌がるんだけど…。  いつも、一言の文句も無しにせっせと手当てしてくれる後輩がいた。それどころか、部活の愚痴を親身になって聞いてもらえたり…。お、お世話になったってレベルじゃねぇ!何で俺、今の今まで気持ちよく忘れてたんだ?よく見りゃ、結構可愛い顔もしてるってのにさ。歴代の彼女と比べても、決してヒケを取らない。俺、アイドルとかも一度気に入るまでは顔覚えないタイプだからなぁ…。  「ご、ごめん。俺、いつも君には助けられていたのに…」  「その代わり、今日俺を助けてくれたじゃないですか。格好良かったですよ、すっごく。俺なんて、地味で印象に残らないですから。だけど、有名人の先輩の手当てが出来て。話が出来て…。いつも、内心ちょっと誇らしかったんですよ」  「有名人って…。昨日も言ったけど、俺なんてそんな大した人間じゃないから。唯一の特技のバスケだって、中途半端で引退したし…」  「知ってますよ、それも。車に轢かれそうになった子供を、とっさに庇ったんですって?その時の怪我が、原因なんですって?頭で思っても、なかなか出来る事じゃありません」  「えっと、その…」  「人間の価値は、勉強やスポーツだけじゃないって。昨日、言いましたよね。俺は、本当に大切な事って・・・。他人のために動けるか、傷つく事が出来るかだと思うんです。先輩は、そのどちらもためらいなく出来る人。だから80点どころか、『点数』なんてそもそもつけられません」  「…」  「そんな先輩だから、俺はいつだって尊敬してるし…。いつだって、憧れの人です。へへっ、言っちゃった」  パァァァァァァァァァァァァァァァァン!  うおっ!何?今の音?  近くの線路に埋められていた、不発弾でも破裂したの?いや、違う。同じ部屋にいる堀北も駅長も駅員さんも、涼しい顔してるもん。  今の轟音は、もしかしなくても…。この俺が、恋に落ちた音なのか?そういや恥ずかしながら、この年まで誰かを本当に「好きになった」自覚がない。いつもその時々の状況で、流されるまま誰かと付き合ってきたから…。  国語の教科書で、「赤い実はじけた」って話があったなぁ。確かに、恋に落ちた時は音が鳴るって言ってた。だけどこんな、銃声みたいな凄まじい音だったの!?せいぜい、「パチン」くらいだと思っていた。これは俺が男性だからか、この年になっての初恋だったからか…。はたまた、その両方なのか。分からないし、また分かりようもない。ただ一つだけ、今明らかに言えることは…。  俺の目の前で、少し八重歯を見せて微笑む少年。堀北希望。この子は…控えめに言って、天使やな!? あぁ、そうか。好きになるって、こう言う事だったんだな。自分の顔が、耳まで赤くなっているのが分かる。  駅長と駅員さんが、「おやおや、若いっていいねぇ」「アオハルですねぇ」みたいな感じでこちらを見ていた。だけどもはや、俺にはどうでもいい事だった…。
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