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プロローグ
高座に上がると一礼して栄助は周りを見渡した。
そこそこ客は入っている。
キャッと黄色い声を上げるのは、洋装に身を包んだ若い女。
肩より高い位置で揃えられた髪、腰のあたりをベルトで締め上げてラインを強調している。
モガのお手本のような彼女たちに視線を寄越すと、再びキャーッと歓声があがった。
彼女たちは栄助の顔にしか興味がないことがありありとわかる。
栄助を見に来る客はそういう女ばかりだ。
そこそこ器用に何事もこなす上に若くてそこそこ顔が整っていて、声も独特の色気がある栄助だ。
落語の良し悪しなどどうでもいい。
(どうせちゃんと聞きやしない)
諦めに似た感情が心を支配する。
心の中で嘆息する。
(また説教か)
そつなくこなすことはできる。
だから彼女たちには伝わらないが、師匠はきっと栄助の噺に魂がこもっていないことはすぐに見破る。
下手な一席を打てばまた師匠にどやされる。
わかってはいたが、栄助のやる気はしぼんでいくばかりだ。
「えー、十人寄れば気は十色、と申しますが……」
栄助はゆっくりと口を開き、話し始めた。
なるべく早く説教が終わればいいな、と思いながら。
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