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どれくらい時間が立ったのか。 フッと男が息を吐きながら返答する。 「いいですよ。菓子の中身と予算、時期は後日相談でいいですか?今日大口の客の注文が入ってバタバタしてるんで」 ホッとした。これで栄助の仕事は半分終わったようなものだ。 「あ、あぁ。助かるよ」 男は、頷いて娘の方を向く。 「タエ子、紙」 「はい」 そうか、この娘はタエ子というのか。 今更ながら知る娘の名前と、その娘の名前を記憶に留めようとする自分に栄助は笑う。 栄助が名前を覚えている女は、きれいで後腐れがない女だけだ。 (こんな野暮ったい女に手を出すことなんかねぇのにな) だから名前を知ったところで意味はない。 なのに、このあとの男の言葉で栄助の頭にタエ子の名は深く刻みこまれることになるのだった。 「手間をかけるが、ここにアンタの名前と連絡先書いてくれないか?タエ子は……、妹は目が見えねぇから書けねえんだ」 栄助はマジマジとタエ子の顔を見た。 タエ子は、ニコッと笑うと少しだけ合わない目で栄助を見つめ返したのだった。
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