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この母屋は普段は勝とタエ子、勝の子どもの義彦と3人で暮らしている。
長男の勝が両親の和菓子屋を継いで、15歳離れた末っ子のタエ子が店を手伝っている。
勝の妻は産後の肥立ちが悪く亡くなったそうだ。
テキパキと夕飯の支度をするタエ子を見ると目が見えないというのが信じられない。
「完全に見えないわけじゃなくて。ぼんやりですが、何かがあるくらいはわかるんですよ」
5歳のとき病で視力を失ったタエ子は栄助にそう告げた。
それでも目が見えているかのように動けるタエ子に、最初は驚いてばかりだった。
今はもう慣れてきてびっくりしないが。
タエ子の作った夕飯で勝と一時休戦をする。
温い味噌汁が胃に届き、じんわり体が温まるにつれ、腹が減っていたことに気づく。
クズ野菜がたっぷり入った味噌汁に握り飯。
簡素な夕飯だが、栄助はここで食べる飯が一番心が休まるのだった。
他愛もない話をしながら全員揃って食べる。
それだけなのに、栄助は居心地の良さを感じるのだ。
師匠の家で世話になっていた前座時代は、食事の時も修行の一貫だった。
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