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二つ目の今は、師匠の家を出て気楽な暮らしだが、一人で食べるには味気ない。だが、仲間内と食事をするとどうしても行き着くところは落語の話になるし、女との食事はある意味気を遣う。
誰かと共にする食事の時間が楽しいと思うのは、生まれて初めての経験だった。
ちゃぶ台越しにタエ子を見る。
彼女は義彦を見守りながら、自分の作った握り飯をぱくついていた。
その姿はどこかリスのようで、栄助は思わずクスッとする。
「なんですか、栄助さん」
声で栄助が笑っているのがわかったのだろう。タエ子が頬を膨らませながらこちらを見る。
ますますリスに似てくるタエ子に栄助は吹き出す。
目が見えないからか、彼女は恐ろしく耳が良い。ほんの小さな、それこそ息を吐く音くらいにしか聞こえない栄助の苦笑に気づくくらいには。
「なんでもねぇよ」
「嘘です!」
誤魔化そうとする栄助にタエ子は追求する声を上げた。
何度も食い下がるタエ子に耐えきれなくなった栄助は、なら、と前置きして言葉を続けた。
「アゴに米粒ついてる」
一瞬で真っ赤に顔を染めたタエ子が慌ててアゴを拭う。
そんな彼女をみて勝と義彦が爆笑する。平和な日常に栄助もつられて笑うのだった。
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