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パチン。 栄助の落語を聞き終えた師匠は、手に持っていた扇子を鳴らす。 顔を見ると、悩んでいるような、怒っているような、それでいて哀れんでいるような。表現するのが難しい顔をしていた。 「栄助」 「へぇ」 「おめぇは……。わかっているのかいねえのか。参ったな」 独り言のように呟くと、師匠は諭すように口を開く。 「栄助」 「へぇ」 「おめぇは儂の最後の弟子だ」 「ありがとうございやす」 「だからよぅ、そんな情けねぇ落語で人前には出せねえんだ。儂の名が、いや、八光亭(はっこうてい)の名が落ちる。もっというと、八光亭 柳助(はっこうてい りゅうすけ)の名跡が落ちるんだ」 「……」 「おめぇの落語には深みがない。前座や二つ目の時分はそれでもいい。だが、真打になったときに早晩行き詰まる。わかっているんだろう? おめぇは人と深く関わって来なかった。いや、関わるのを避けてきた。だから噺をしても、特に人情話をした時に響かねえ」 「……へぇ」 師匠の指摘は的確だ。申し開きをする気はない。 自分の落語に深みがないのは、栄助が一番わかっていた。 ぺらっぺらの薄っぺらい落語。なのに、栄助が少しばかり顔がいいからと、きゃーきゃーいう女性たち。
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