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何でこんな落語で喜ぶんだ。自分自身はこんな情けない落語しかできない自分に呆れているのに。
「おめぇは自分の落語が好きか?」
「……いえ」
「……そうか」
師匠は一旦深呼吸をし、質問を変えた。
「落語に飽いたか?」
「いえ!落語は、……師匠や兄さんの落語は好き……です」
最初は勢いよく答えたが、次第に尻すぼみになる栄助に師匠は少しだけ相好を崩す。
「そうか」
それきり師匠は黙りこくった。何かを言いあぐねているようなそんな顔つきだ。
「おめぇは……この先、落語で身を立てたいか?」
いつになく真剣な顔の師匠に、栄助もしばし考え、正直に答えた。
「……わかりません」
深い深いため息が師匠から漏れた。そこなんだよな、と呟く師匠の声がする。
悩みに悩んだ末に、師匠は告げた。
「謹慎は解く。儂からはもう何もいうことはねえよ」
「……師匠」
「おめぇに教えることは教えた。あとは栄助、てめぇがこの世界の闇を見たいかどうかだ。
怖ぇぞ。この落語は。周りが勝手に肩書をつけてくるし、寝ても覚めてもあいつらがまとわりついてくる。
辛ぇぞ。本当に」
本音を吐露する師匠にかける言葉は見つからない。
そんな栄助をよそに師匠の口から出てきたのは驚きの言葉だった。
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