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「……覚悟がねぇなら足洗え。それがおめぇのためだ」 「し、ししょ……」 絶句している栄助に師匠は怖い顔を向ける。 と、不意に吹き出した。 「え?……師匠?」 ガハハと豪快に笑ってはいるが目は笑っていない。 (逆に怖いってもんだ……) 栄助の心の内を読んだのか、笑いを引っ込めた師匠は頭をかく。 「ま、口うるさい小言はこれくれぇで……。 おめぇ、明日から寄席に出ろや」 「へぇ?」 急展開についていけない栄助は目を白黒させる。 師匠の唐突な思いつきはいつものことだが、今回のは度が過ぎる。 「いやぁ、おめぇが出ねえからって客が減って怒られてるんだわ。ということで謹慎解除な」 サッと立ち上がり部屋を出ていく師匠に追いすがる。 「ちょっ……師匠!?」 「まぁ色々考えろってことだ。人生ってもんは先は長ぇようで短ぇ。まぁ上の連中は深みのねぇ軽い落語は認めねえが……。おめぇに客が付いているってこたぁ求められてはるんだろ」 「師匠はどう思われているんですか?」 「儂か?儂は……」 言葉を切って、師匠はニヤリと笑った。 「ナイショだ」 これで終わりとばかりに足早に去っていく師匠の背中を見送って。 残された栄助は呆然と部屋に佇むしかなかった。
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