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6
完全に行き詰まっていた。
寄席に上がる許可が出た途端、多くの寄席に呼ばれる。
体の許す限りやみくもに一席を打つ。が、打てば打つほどドツボにハマる。
噺をすればするほど、栄助自身が納得できない出来になる。
それでも。
見た目だけで寄ってくる客は途切れない。
実力と客の入りが反比例しているのだ。
「いいよな、男前は」
「中身がなくても満員御礼だもんな」
噺家たちから表立って批難されることも増える。
師匠は現状を知ってか知らずか、何も言わなかった。
ただ、寄席で会うと静かに栄助の噺を聞いているだけだ。
栄助が尋ねても決まって、自分で考えろ、というだけだった。
※
「おい、栄助」
「へぇ!」
寄席で久しぶりに師匠から声をかけられた栄助は、文字通り師匠の元へ飛んでいく。
指導がもらえると思っている栄助をよそに、師匠から出たのは、親子会のことだった。
「もうすぐなんだ。きちんと準備しろや」
それだけいうと煙管を咥えた師匠に火を持っていく。
「あの、師匠。話はそれだけで?」
「ん?そうだ。何かあったのかい?」
「……いえ」
言いたいことは山程ある。
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