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「栄助」
「へぇ」
頭を下げて師匠の次の言葉を待つ。
ふぅーっと煙を吐き出して、煙管を灰皿にコンコンと打ち付ける音がする。
栄助は顔を伏せて次の師匠の言葉を待っていた。
顔を上げろといった師匠の顔に浮かんでいたのは、呆れだった。
「儂から言うことはもう無ぇよ。自分が一番わかっているだろうからな」
諦めじゃなくてよかった、と内心ホッとしつつも、これで師匠の説教が終わるはずない。
師匠から告げられたのは予想外に厳しいものだった。
「おめぇさん、しばらく寄席に出入り禁止な。そんなんで客の前に出続けてらぁ、古くからのタニマチが離れちまう」
「なっ……」
「なんでぇ?自分以外人気がある若手がいねぇからって自分は罰を受けることは無ぇとでも思っていたか?
そんな甘ぇもんじゃない、この落語会は」
厳しい師匠の言葉と視線に、栄助は心の内を読まれたようで恥ずかしさで顔を伏せるしかなかった。
「まぁ、しばらく初心に戻って修行しろや」
「へぇ。ありがとうございます」
「なぁ、栄助よ。顔で判断する客しかついてねぇのは、おめぇの実力不足だ。
その日限りの女じゃなくて恋人の一人や二人作ってみな。おめえの落語も変わるだろうよ」
師匠の言葉にただ栄助は頭を下げ続けるのだった。
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