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7
「ふうん、栄助のやつ、今日はちょっとまともな一席を打ってるじゃねえか」
師匠は舞台の袖で栄助の落語を聞きながらアゴを撫でた。
近くにいた一番弟子で栄助の兄弟子の八光亭 菊助が答える。
「気付いたんですかね?栄助の野郎」
「いや、そう簡単な問題じゃねえさ。明日には戻ってら」
突き放す師匠の顔はどこか面白そうだ。
一番末っ子弟子に甘く、それでいて厳しく接する師匠。
栄助が可愛くて仕方ない癖に、敢えて困難な道を進ませようとする。
師匠が八光亭柳助の名蹟を継がせたいのは栄助なのだ、と菊助は思う。
それを悔しい、と思うのはとっくの昔に経験をした。
今は……。
「こんなところで足踏みしている場合じゃないぞ、栄助。さっさと真打に上がってこい」
「ほぅ、おめぇが栄助を応援するなんざ珍しいこともあるもんだ。槍がふってくらぁ」
笑う師匠に菊助はズケっと物申した。
「そろそろ師匠も栄助のことでごちゃごちゃ言われるの、飽きたでしょ」
ふぅー、とやけに長く息を吐いた師匠だったが、菊助の問いには結局答えなかった。
※
手応えはなかった。
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