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「一度寄席で栄助さんの落語を聞いてみたくて。姉に無理言って連れて来てもらいました」 栄助は黙り込む。 よりによって今日なんだ。 ここ最近で一番出来の悪い噺の日を狙ったようにやってくる。 格好がつかないだろうが、と心のなかで呟いた栄助は、ふと我に返る。 タエ子の前で格好つけようと思ったことあったか?、と。 「やっぱり高座に上がると違うんですね、栄助さん」 ふふっと笑うタエ子。続いた言葉は、栄助の予想外のものだった。 「最後に出てきた方に劣らないくらいの素晴らしい落語を聞かせていただきました。ありがとうございます」 「え?」 栄助が驚いているのを気づいているのかいないのか。 タエ子は、また店に来てください、と言い残し、良子と去っていった。 栄助はしばらくその場に呆然と立ち尽くすしかなかった。
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