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タエ子は栄助の湯飲みに茶を注ぐ。それ以上は何も言わないで話題を変えた。
「私にお話があるって?」
詫びを言われたら困った。説明するのも鬱陶しい。だからタエ子があっさりと聞き流してくれて助かった。
ホッとしながらも、本題を切り出す。
「あん時の落語」
「はい」
「正直俺の落語、よくなかっただろう」
「いえ!」
タエ子にしては珍しく力強く否定をする。
「最後に出てきた方の次に素晴らしい落語でした!」
あの時と同じ言葉を繰り返す。何故かイラついた。
「出来が良くねえのは自分が一番わかってんだ!兄さん達を差し置いて、師匠の次に出来がいいなんてこと、ありえねえんだよ!」
「そんなことないです!私には、師匠さん?の次に好きな落語でした!……あまり落語のことは詳しくないですが、目が見えない分、わかることもあるんです!」
「だから!」
「うっせえぞお前ら!店まで聞こえるだろうが!!」
お互いに譲らない。自然と大きくなるやり取りを一括したのは、勝だった。
ドカドカと居間に来た勝は、短く言い捨てる。
「外でやれ。営業妨害だ」
店を追い出された二人は、仕方なく近所にある喫茶店に足を運ぶ。
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