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家から近いのに来たことはなかったのか、落ち着かない様子のタエ子。 初めての場所は緊張するんです、と小声で呟いて小さくなっているタエ子を見て、栄助は少しばかり冷静になる。 結局、珈琲が出てきて栄助が声をかけるまでタエ子はずっとモゾモゾしていた。 「よくまあ、そんなんで寄席にこれたな」 初めて来た寄席があんな出来だったのは一旦置いて、緊張した様子のタエ子に尋ねる。 「初めての場所はいつもそんなになるんかい?」 「毎回じゃないんですが。やっぱり見えない分、耳とか鼻が敏感になって。店だったら慣れているから安心するんですが、そんなこといったらどこにも行けないから」 「買い物とかはどうしてるんだい?」 「義彦がついて来てくれたり、姉が買ってきてくれたり。近所のお店だったら仕入れのついでに店によってくれたり。皆さん気を遣ってくれるから助かります」 落ち着いたのか、いつもの調子を取り戻した様子のタエ子は、この店に来た目的を思い出したのか、栄助に語り始めた。
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