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(なんでってえんだ、全く) タエ子を送った栄助は歩きながら頭をかく。 師匠の言葉が思い浮かぶ。 ――自分の落語は好きか―― ――この世界の闇を見たいか―― ――覚悟がねぇなら足洗え―― ケッと、栄助は吐き捨てる。 「もってらぁ、覚悟なんざ。……落ちて堕ちてどん底に落ちる覚悟なんざ、とっくに」 足りなかったのはどん底に入る勇気がなかっただけだ。 いや、違う。 どん底に堕ちたとき、戻れなくなるのが怖かったのだ。 栄助は笑った。 ――栄助さんは栄助さんです。思う存分ご自身を突き詰めてください。ずっと見ていますから。と言っても見えないんですけど。 糸を垂らすくらいはさせてください。―― 去り際に顔を赤くしながらもきちんと意思を伝えてくるタエ子に少し心を揺さぶられた。 見た目で判断しないタエ子(彼女)なら、闇に捕らわれたとしても、栄助が栄助でいる限り側にいるだろう。 育ちが悪い自分のことも、過去も未来も。 栄助でいることを認めてくれる。 ああ、やっとわかった。 キレイな格好に身を包み、化粧をした女たちがキャーキャー言うたびに、どんどんやる気を無くした原因が。
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