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誰かに肯定してほしかったのだ。落ちて堕ちて剥き出しになった自分を怖がらずにいてくれる誰かが。
そんな男が、表面を取り繕っているのではなく、感情を剥き出しにした落語を認めてくれる誰かを求めていた。
タエ子なら、きっと……。
栄助はふっと、息を吐く。
野暮ってぇ女は好みじゃねえんだけどな。
そう思い、今度は自嘲するように笑った。
惚れた腫れたは今の栄助には邪魔だ。
よし!
底まで落ちないと見れない景色があるなら、トコトン落ちてやらぁ。
落語の闇ってえのを見せてもらおうじゃねえか!
※
「栄助さんの落語は……」
タエ子は話す。
栄助の声は艶があり、聞いていて心地いいトーンだと。
もちろんトリに出てきた師匠には負けるが、と付け加える。
「そりゃどうも」
イヤミで言っているのではないことはわかる。投げやりに礼を言う栄助に、タエ子はクスリと笑う。
「この間の寄席で聞かせてもらった落語は本当によかったです。この間、義彦相手に聞かせていたのよりもずっと」
「俺ん中では出来の悪い落語だったけどな。3本の指に入るくれぇは」
「どこが悪かったんですか?」
「逆にどこがよかったってぇんだ?」
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